映画に行くと約束をして、駅前にある大きなモニュメントにて待ち合わせをした。待ち合わせ時間は午前10時。これは現実だよなっと夢と現実かを確かめる澄矢は楽しみすぎて、待ち合わせより1時間も早い時間に待っていた。
雫羽に会った時は日時も場所もわからない。突然に次元のゆがみで瞬間移動して、時間の感覚もなければ、場所も知りえることができなかった。こうやって、待ち合わせができる喜びを確かめていた。まだかなとうろうろと動いてみたり、何度もスマホのメッセージを確認した。そわそわしている。そもそも、澄矢は今まで雫羽以外デートというデートをしたことがない。人生初のようなものだった。

「あれ、澄矢くん、めっちゃ早くない!?」

 茉大が、来てから5分後に現れた。お互いに指さして笑い合う。

「そっちも早すぎでしょう」
「あ、そうだよね」

 ニコニコと笑顔を見せる茉大に澄矢は頬を赤らめる。早く来てくれて、ものすごくうれしかった。一緒にいる時間が長くなる。

「んじゃ、行こうか」
「お、おう」

 澄矢は恥ずかしそうに少し離れて歩いた。手をつなぐにはまだ早いなと頭の中でいろいろと考える。

「何か考え事?」
「いや、別に、たくさんの人で混んでるから。茉大さん迷子にならないかなって」
「な、失敬な。これでも、澄矢くんより年上だよぉ……でも方向音痴であります」
「それは困りましたね。一緒にいないとはぐれちゃうじゃないですか」
「目的地いけない……ん?」

 澄矢は、さりげなく、顔を見ずに左手で茉大の右手をつかんだ。ちょっと不器用さが見え隠れする。恥ずかしいのがつたわってくる。指しかつかんでない。顔を見てない。茉大ははにかみながら、しっかりと手をつないだ。急に変化した手の動きに澄矢の鼓動は早まったが、何も言わずに先に進む。お互いに緊張しているが、わかった。

「というか、映画館でいいんですよね」
「う、うん」

 緊張で何を話したか覚えていない。適当に会話をつなげていた。
 行きかう人にどう見られているんだろう。彼氏彼女なのかなと想像する。
 会ったばかりでまさか映画を見に行くとは思わなかった。同じバイト先の先輩後輩の関係で元彼女?にそっくりという偶然の一致。思い出すたびに涙するかもしれない。そんなことを思いながら、澄矢は今という時間を堪能していた。今は心地よいという空間を優先に楽しもうと考えた。

 映画館のチケット売り場で、座席を一番後ろの真ん中に指定した。ちょうど開いていた。見る映画は茉大のリクエストで恋愛ストーリー。初めての2人のお出かけで耐えられるが心配だった。

「チケット買いましたよ。何か飲み物も買いますか? 開場時間まであと20分くらいです」
「うん。ポップコーンも欲しいね。澄矢くんチケット代払ってくれたから食べ物と飲み物は私が払うよ」
「いやいや、俺が払いますよ。いつもお世話になってますし、男が払わないと」
「え、私の方が年上だし、遠慮しないで」
「いや、もう。気にしないで。好きなものを」
やり取りが長く続くのかなと思ったら、あっさり茉大が折れた。
「ほんと? 好きなの頼んじゃうね。いつも我慢して安いのにしちゃうから」
「ええ、もう。どんっと来いって感じです」
 改めて、財布を確認すると思ったより入ってる額が少ないことに気づく。
「茉大さん、やっぱり別会計にしません?」
「さっきの勢いはどうした?」
「あーー、思ったより財布の中にお金が入っていなかったもんで……」
「澄矢くんって可愛いね」
 茉大は涙が出るくらい笑ってしまう。
「は!? 可愛い??」
「気にしないで、私におごられなさい」
「は、はい。今日はそうしておきます」
「そうだよ、私が誘ったんだから」
 
 澄矢の背中をバシッとたたく茉大。なんだかそういわれると安心した。こっぴどく怒られるものだと思っていた。男たるもの女子におごれないなんてと情けなくなる。澄矢は、悲しい気持ちを背負ったまま、映画鑑賞するが、途中ラブシーンがあると目をつむって見られなくなるという行動を起こしたが、茉大は真剣に映画を見ていて、逆に恥ずかしくなった。
 
 映画終わりには、喫茶店で珍しい藍色のクリームソーダを2人で飲んだ。
  
 昔から知り合いだったかのような感覚してリラックスして過ごせた。
 本当に彼女は雫羽ではなかったのだろうかと思ってしまう。
 
 彼女が生きていたら、こんなふうに過ごせていたのだろうか。
 過去の記憶を引きずる澄矢だった。