カフェのバイトも徐々に慣れてきて、大学通いながらの生活リズムも整ってきた。
澄矢は、お客対応に追われていた。

「ねぇねぇ、快翔くんって澄矢くんの友達なんだよね」
 茉大は、棚の整理整頓をしながら、快翔に声をかけた。
「え、まあ。そうですけどね」
「高校一緒だもんね。澄矢くんって学校でもあんな感じ?」
「え、茉大さん。澄矢のこと気になるっすか?」
「いや、いやいやいや。そ、そんなことはないよ」
 (すっげー。わかりやすい)
 快翔は、不思議そうな顔をして、持っていたマグカップを棚に置く。
「……まぁ、かわりないっすよ。あのまま。好青年みたいな感じ。あんな真面目人間に俺もなりたいっす」
 快翔は、じっと澄矢を見ながらいう。茉大は、快翔とともに澄矢を見ていると、バチっと目が合った。
「あれ。なんすか? 2人してこっち見て。何かついてます?」
「いんや、何もないよ。何も」
 快翔は手をブンブンと振った。
「澄矢くんって真面目なんだね」
「へ? なんで、そんな話に?」
「ほらほら、お客さん来てるよ」
 ハッと振り返ってレジに戻る。茉大は、澄矢のことが前よりも気になるようになってきた。2か月も経って来た仕事もてきぱきこなすようになってきている。茉大も感心するくらいで先輩面ができなくなってくるくらいだ。
「茉大さん。さっきの方の注文、アーモンドミルクに変更したかったそうです!」
「あ。はい。ごめん。今承ります!!」
 バイトの回転率も速くなり、スタッフも動きやすくなっていた。

「「お疲れさまでした」」
 スタッフが集合して挨拶をした。
 バイト終わりの歩道で3人は横に並んで、駅までの距離をいつものように歩いていた。

「今日も頑張ったよね」
「そうっすねぇ」
「今日は新商品出ただけでもあって、お客さんの入りは激しかったですね」
「確かに」
「あ、悪いんですけど、俺、寄るところあるんで先帰っててください」
 快翔は、手を振って、脇道をそれていた。
 澄矢と茉大の2人は急に沈黙になった。静かに歩いて行く。

「「あの」」
 
同時に話す。

「ごめんなさい。澄矢くんからいいよ」
「いえ、茉大さんからどうぞ」
「えっと……明日って土曜日だけど、何か予定あるかなって思って」
「あー、明日っすか。何もないですけど」
 後ろ頭をぼりぼりとかきながら、澄矢は頬を少し赤らめた。
「見たい映画があって、一緒に行かない?」
「映画……まぁ、いいですけど」
(隣同士で見るんだよなぁ。めっちゃ近いなぁ)
 映画の見る時を想像して、澄矢は今から緊張してきた。
 そばで見ていても、頭の先から足先まで雫羽とそっくりで本当に一緒にいていいのかと背中がかゆくなってきた。

「楽しみにしてますね」
 澄矢は素直に今の気持ちを言った。茉大は、頬を赤らめて笑顔になる。
目の前に雫羽が笑顔になっていると顔を重ね合わせる。頬に涙を流した。
雫羽に会いたい。茉大は澄矢が泣いてるのを察して背中に触れる。

「大丈夫?」

 茉大のやさしさに触れた。澄矢は、涙を腕をふいて、気持ちをきりかえた。