「いらっしゃいませ。ご注文どうぞ」
「えっと、キャラメルマキアートのトールサイズでお願いします」
「はい、キャラメルマキアートトールサイズですね。ホットでよろしいでしょうか?」
「はい、ホットで」
 茉大は、手際よく注文を承っていた。横で見ていた澄矢は、メモを取りながら、やり方を教わっていた。
「お支払いはいかがいたしますか?」
「ペイでお願いします」
「かしこまりました。それでは、QRコードを端末にかざしてくださいね」
「はーい」
 シャリーンと音が鳴り、支払いが終了した。レジ画面には、注文したメニューと金額、支払い方法など表示されていた。茉大は、笑顔でてきぱきこなす。レシートをお客さんに渡して会計は終わった。
「「ありがとうございました」」
 挨拶だけは一緒に同時に行った。
「澄矢くん、わからないことがあったら、すぐ言ってね。教えるのが大変になるから」
「はい。わかりました」
 メモを書き終えて、ボールペンをノックしてポケットにしまった。今できる作業をこなしていく。少しかがんで、下の引き出しをのぞいていると、お客さんが途切れたころに、茉大は澄矢に声をかける。
「ねぇ、澄矢くん。私たちってどこかで会ったことあったかな?」
「……え?」
「すいません!」
 お客さんに呼ばれて、すぐに茉大は、対応する。
 澄矢は雫羽と名前を呼んでしまったからかと思案顔になった。

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」
 澄矢は、横から茉大の営業スマイルをじっと見つめていた。どこからどう見ても、雫羽の顔にそっくりだった。どうして、ここまで全く違う感覚なのかと不思議で仕方ない。生まれ変わったのか。いや、年上だから、それはありえない。もう、ここにいる茉大が雫羽でいてほしいと感じてしまう。できることなら一緒にいたいという願望がよみがえる。頬を赤くして、仕事に黙々と取り組んだ。

 お客さん対応を終えた茉大は、また澄矢に近づいて、小さな紙をエプロンのポケットに入れた。
「澄矢くん、もしね、嫌じゃなければ、そこに連絡先書いてるから。
 都合のいい時、連絡ちょうだい。バイトの仕事のことで聞いてきてもいいよ」
「あ……」
「ごめん、迷惑だったかな?」
「いや、全然。すぐ、登録します。ありがとうございます。先輩」
「茉大でいいよぉ。先輩だと距離遠いじゃない。そこまで年齢遠くないし」
「マジっすか。何歳ですか?」
「えっと今年19歳」
「一つだけ上ですね」
「でしょう。一個違いならいいじゃん」
「はい。茉大さん」
「うん、それでいいよ。私は澄矢くんって呼ぶね」
「はい。大丈夫です」
 澄矢は、もらったメモを見返して、筆跡を確認する。
 雫羽が書く字にそっくりだった。 双子なのかもしれない。
「茉大さん、双子の姉妹っていますか?」
「え?双子いないよぉ? 私ひとりっ子だし」
「そうなんですね」
「わがままだよ?」
「別に気にしませんよ」
「あ、本当。ありがとう」
 にこにこと頬を赤くして笑顔になる。
 胸がきゅんと締め付けられた。

 ちょっとした会話で茉大の性格が見えた気がした。もっと彼女のことが知りたくなった。もしかしたら、雫羽なのかもしれないと変な期待を込めている。