「私、大学は文学部に入ります。出版社とかで働いてみたいな。」


「出版社は大変だよ?倍率がめちゃくちゃ高いんだから。いっぱい勉強しなくちゃね。」


鈴谷先生は私にニコリと微笑みかけてから、もう1度私が書いた文章に目を落とした。


「とても素敵な文章ね。心を惹かれる。これ、題名付けなくていいの?みんな何かしら題名を付けることになってるけど。」


「うーん、題名かぁ。なんか気取ってるみたいでこそばゆいんですけど……。」


『愛情』だと無難だよね……。じゃあ何?『高校生活で学んだこと』とか?もっと無難!


でも、せっかくならちょっとカッコつけて書いちゃおうかな。


その文章の紙の余白に、私はシャーペンで書き足した。


『苦手だったあなたへ』


鈴谷先生は何も言わず、笑わず、かといって表情を変えず。


コクっとうなずくとそれを職員室に持って行った。


どう考えても紺野先生への手紙みたいだ。


まぁ、紺野先生もきっとこれを読んでくれるはず。


誰もいない1人の相談室で、誰に言うでもなく「よしっ。」と気を高めると、私は教室に戻った。





卒業式、紺野先生はいないだろうし、誰かと写真を撮ることもないだろうけど、一応髪の毛を可愛らしくセットして出ることにした。