「あっ、でも……環くんが言いたくなかった別に……」

「あの場所、なごみは覚えてない?」

「忘れるわけないよ。修也くんが落ちた階段だもん」


 あの事故を思い出したくなくて、図書館に続くあの長い階段には近づかないようにしているけど。


「3年前のことじゃない。もっと前」

「えっ?」

「なごみが初めて俺にお菓子を作ってくれて、二人で階段に座って食べたでしょ」

「それって幼稚園の時?」

「バレンタインデー。俺のためにお母さんと一口チョコを作ってくれたんだよね」

「確か……市販のチョコを溶かして、型に流し込んで固めただけだったと思うけど……」

「嬉しかったんだ。環くん大好きって笑いながら、俺にプレゼントしてくれたの」

「型からチョコがはみ出してたし、見た目も変だったでしょ?」

「大好きな子からもらった極甘なチョコ。本当においしくて、忘れられなくて。あの日から俺の大好物が、チョコレートになったんだよ」



 闇夜を覆う雨雲を蹴散らしそうなほど、さわやかに微笑んでくれた環くん。


 「どんなに高級なチョコよりも、なごみの唇の方が甘かったけどね」


 私の頬に手のひらを添え、甘い瞳で私を見つめてきたんだもん。

 湧き上がる幸福感と3年前のキスを思い出してしまった恥ずかしさで、私のハートはドロドロに溶かされてしまったのでした。