胸まで伸びる私の髪。

 環くんは親指と人差し指でつまむと、指に細い束を絡めはじめた。

 そしてゆっくりとまぶたを閉じ、私の髪にチュッ。

 小ぶりで形のいい唇を押し当てている。


 まるでおとぎ話の中の、求愛シーンのよう。

 まぶたを開け、愛おしそうに私を見つめてくる環くん。


「花音に脅迫されて、嫌々なごみから離れたけど。ずっと願ってたよ。なごみに触れられる特等席を、俺だけが独占したいなって」


 しっとりと微笑む環くんにドキドキドキ。

 私の心臓は今にも破裂しそうで。

 キュン死は免れなきゃ。

 永遠に環くんに会えなくなっちゃう。

 心臓の駆けだしを沈めたくて、私は深呼吸をはぁー。


 でも、異常事態並みに暴れているのは心臓だけじゃなくて。

 脳内の思考回路もぐちゃぐちゃ状態に。


 焦って、キョドって、プチパニックで
 
「ぶっ、部室に貼ってあった写真は? 雨の日の…… 環くんが私を恨んで、あんな写真を撮ったのかと思ったんだけど……」

 幸福な雰囲気に水を差すようなことを、つい口走ってしまいました。