『なごみ、大丈夫?』


 一緒に修也くんを追いかけていた環くんが、私を後ろから力強く抱きしめてくれたから。


 でも……


 ホッと一安心なんてできなかった。

 次の瞬間、凄惨な現実が瞳に映り、私は目を見開かずにはいられなかった。


 私が階段を踏み外した時に、悲鳴を上げてしまったからだろう。

 私の危機を察知して、後ろに振り向いた修也くん。


 大粒の雨に打たれながらバランスを崩し。

 足を滑らせ。

 石段の角に後頭部をぶつけ。

 20段ほどある階段を、ザザザーと滑り落ちてしまった。



 修也くんは3年前のあの日から一度も、まぶたをあけてはいない。

 昏睡状態。

 病院のベッドで今も静かに眠り続けている。


 修也くんが今も昏睡状態なのは、私のせいだと思う。

 修也くんの想いに気づくことなく、環くんに告白してしまったことも要因だけど。

 私が階段から落ちそうにならなければ、修也くんが石段に頭を打ちつけることはなかったはずなんだ。