この購買スペースの角。

 空箱が高く積んであるから、しゃがめば隠れられそうだけど……


「これ、あんたにあげるわ」


 これって……


「このカンガルーちゃん持ってるとな、おばちゃん、あんたのこと見えなくなるんよ」


 げんこつサイズのカンガルーのぬいぐるみに、そんな神秘的なパワーが?


「なーんてウソウソ。アハハ」

「……」

「ここの生徒が欲しくてたまらない縁起物ってのはホント。恋が叶うって言われてるから大切にしなね」


 購買のおばちゃんは私の手にぬいぐるみを握らせると、腕時計をチラッ。

「もうこんな時間かい。あぁー忙しい忙しい」

 バタバタと走りだし、廊下の角を曲がって消えてしまった。


 私は手のひらに乗っているものに、潤んだ瞳のまま焦点を合わせてみる。


 このカンガルーのぬいぐるみ、無表情で外を見つめる環くんに似てるな。