壁に立てかけてあるパイプ椅子。

 一つ手に取り、私はドアの前で開いた。

 クッションにお尻を沈ませるようにストン。

 ザーザーぶりの雨音も気にせず窓ぎわで寝ている環くんの背中に、悲しみの視線を突き刺す。



 3年前の中2の時、私は環くんに告白をした。

 雨宿り中の図書館の軒下で。


 私の唇におし当てたチョコを、環くんが頬ばったあと

「ちゃんと味わってね、俺の甘さ」

 なんて言いながら、私にキスをしてきたんだもん。


 両思いだと舞い上がっちゃった私は

「大好きだよ、環くん」

 なんて、愛を囁いてしまったんだけど……



 環くんは急に青ざめた表情になって。

 幼なじみの恋心を拒絶するかのように、私に背を向けたんだ。


「……ごめん。今のキスは、そういうのじゃないから」


 後悔まじりの冷たい声をこぼしながら。