「……伯蓮様」
「ん?」
「わ……私も多分。恋を、しています」
「っ!」

 初めて明かされた朱璃の胸中に、伯蓮も驚きを隠せずに目を見張った。
 互いに恋をしている宣言したものの、肝心の意中の相手は有耶無耶にしている今の状態。
 それでも、ようやく打ち明けてくれた朱璃に対して、伯蓮が期待しないわけがない。
 伯蓮が誰に想いを寄せているのかは、すでに朱璃には理解されているずだから――。

「その方の幸せを願い、その方を想うと胸が激しく脈打つのは、恋、なんですよね?」

 朱璃に自身の騒がしい心臓音を聞かせたことがある伯蓮は、いよいよ確信した。
 恋をするとどんな変化が体に起こるのか、朱璃の身にもそれが生じていたのなら――。

「そして、そのもふもふに触れると、こう、心臓がきゅーんと……」
「…………ん? もふもふ?」

 様子のおかしい会話になってきて伯蓮が怪訝な表情を浮かべると、朱璃は両頬を包み込んで陶酔していた。
 先ほどまで想いは同じと思っていたら、急に違う方向に走り出した朱璃の意識。
 それに危機感を覚えて、有耶無耶にすることを拒んだ伯蓮が席を立ち上がった。

「私はっ! “朱璃”に恋をしているのだっ」
「っ⁉︎ 私も伯蓮様……と、あやかしたちに、恋をしているみたいなんです!」
「…………はあ……?」

 相思相愛が認められて、超絶嬉しいはずの伯蓮がなんとも言えない顔をした。
 どうやら伯蓮に向けられる朱璃の恋心は、あやかしに向けられるものと同格らしい。
 その新事実に、周りにいた三々、そして流と星が一斉に朱璃を凝視して空気が凍る。
 すると皆を代表して、眠っていたはずの貂々が呆れたため息を漏らし、説教をはじめた。

「朱璃、お前は人間だ」
「わ、わかってるよ……」
「ならば恋をする相手は当然人間。あやかしが好きなのは理解するが、その好きは“恋”とは違う」
「え⁉︎ でも、あやかしを想う気持ちと伯蓮様を想う気持ちが同じって考えたら、自分の中で気持ちが軽くなったの……」
「なぜ同じと考える? あやかしは所詮あやかし。伯蓮はお前を慕うたった一人の男だ」
「〜〜っ!」

 認めたくなかった事実を貂々に言い当てられて、抑えていた朱璃の心が膨張した。
 伯蓮を想う気持ちとあやかしを想う気持ちが同じならば、どんなに楽だったことか。