「お手に触れず、どうやって倒されたのですか……!」
「あ、いや私は……」
「その壺は世界に数点しかない高級品でしたのに!」
豪子の嘆きを聞いて、それは申し訳ないことをしたと弱気になった伯蓮。
しかし、ふと視線を落とした先に、破片に埋まった一枚の折り畳まれた紙を発見する。
その不自然なものに手を伸ばそうとした時、指を切る危険性を察した関韋に止められた。
「私が拾います」
「……頼む」
破片を払って無事に紙切れを手にした関韋が、伯蓮に手渡す。
そうして丁寧に開いた紙に目を通す伯蓮の様子を見て、豪子が不思議そうに尋ねてきた。
「なんですかそれは、なぜ壺の中に……?」
「……さあ。……ただ、もしかすると善良なあやかしの仕業かも」
「……は……あやかし?」
意味不明なことを言い出した伯蓮に、あやかしの存在を確認できない豪子は首を傾げた。
だが、目の前に差し出された一枚の紙に目を通して、ひどく驚愕する。
「こ、これは……」
「豪子殿、これが本物の取引の履歴だな?」
そこには、国に提出された報告書とは別の、豪子の極秘取引一覧のような内容が記載されていた。
最近の日付と取引した商品名、転売の際の倍額もしっかりと記されている。
商人の本名や、その者からどんな商品を買い取ったのか、それはもう丁寧なほど事細かに。
その中の一つに、怪しげな“樹皮茶葉”の買取も記録に残っている。
「この樹皮茶葉は転売の記録がないが、どうしたのだ……?」
「そ、それは、私用の……」
「どんな茶だ?」
「……ただの、よく眠れるという茶で、ございます」
「……そうか」
明らかに動揺している豪子の様子を見て、貂々がわざわざ壺を割った理由がわかった。
なぜそんな重要な紙が折り畳まれて壺の中に隠されていたのか。
その詳細はあとで尋ねるとして、このまま豪子の悪事を暴きたい伯蓮が関韋に指示を出す。
「今すぐここに記載されている名前の商人を探し出せ。奴を聴取する」
「かしこまりました」
「他の商人、転売先も把握して聞き取りを頼む」
突然の重要証拠出現に、豪子も対処が追いつかず沈黙したまま冷や汗だけが額に滲み出ていた。
そこまでの根回しはしていなかったようで、商人らの証言が集まれば豪子の罪も明確になる。
「もしもこの樹皮茶葉に催淫効果が含まれる成分があったとしたら……豪子殿」
「……は、はい……」
「わかっているな?」
「っ……はい……」
そう返事をした途端、膝から崩れるように座り込んだ豪子。
やがて宰相の任を解かれる彼の野心は、元皇帝で今はあやかしの貂々と、現皇太子の伯蓮によって打ち砕かれた。