「尚華妃に薬を盛られたのですか!」
「あ、ああ……朱璃には言ってなかったな」
「そんな、今はもう大丈夫なんですか⁉︎ どこか痛いところとか……」

 ものすごい剣幕で問いかけられ、伯蓮も押され気味の様子。
 すると、助け舟のつもりで関韋が詳細を語り出した。

「薬といっても体に害はないものです」
「え? そうなんですか、良かったです……」
「まあ直後は体が熱くなり発汗して、ムラムラすることもあったでしょうが」
「村?」
「何せその薬は催――」
「関韋!!」

 慌てて関韋の口を塞いだ伯蓮は、なぜか顔を紅潮させながら朱璃の顔色を確認してきた。
 しかし薬の正体まではわからず首を傾げている朱璃を見て、ほっと肩を撫で下ろす。
 催淫薬を飲まされた体で朱璃を助けに行ったなんて、できれば知られたくない伯蓮は容赦なく関韋を睨んだ。
 その圧を感じ取った関韋は、悪びれもなくぺこりと頭を下げるだけ。
 それでも伯蓮の体調が心配だった朱璃は、眉を下げて問いかける。

「でも、そんな辛いお体で私を助けに来てくれたんですか……」
「も、もういいのだ。朱璃が監禁されたのは私のせいでもあるのだし」
「帰り道もずっと抱えてくださって……」
「当然のことをしたまで。朱璃が気にすることではない」
「っ……」

 優しく微笑む伯蓮に、朱璃はますます胸を熱くさせた。
 皇太子ともあろう方が、侍女にそこまでする必要なんてないはずなのに。
 ましてや元下女の、身分の低い朱璃にそこまでの対応は通常ではあり得ない。

「朱璃殿?」
「あ……はい!」
「朝餉の準備は整いましたか?」
「あ、お待たせしました! どうぞ召し上がってください!」

 ぼんやりしながら準備をしたせいで、完了を伝え忘れてしまった。
 慌てて答えた朱璃に、伯蓮はニコリとしながらも「いただきます」と囁いて食事を開始する。
 相変わらず綺麗な作法で皿と箸を持ち、静かに咀嚼する伯蓮。
 その姿をじっと見つめていると、昨夜その腕にきつく抱きしめられたことを思い出した。
 すると突然、顔が熱くなって激しい動悸に襲われた朱璃だが、退室するわけにもいかないので。
 グッと胸を抑えながら、鎮まるまでひたすら我慢した。