「……えっ、伯……?」
「っ……す、すまないが……少しだけ」
「???」

 伯蓮の腕の中にすっぽりと収まる朱璃は、もちろん戸惑っている。
 しかし、それほどまでに伯蓮の体が冷えていたのかと思うと、申し訳ない気持ちを抱いた。
 自分が外套を借りなければ、伯蓮に寒い思いをさせる必要がなかったから。

「私のせいで、伯蓮様のお体が冷えてしまいました……」
「……そう思うなら、今度は朱璃が私を暖めてはくれぬか?」
「わ、私が……」

 伯蓮の要望を聞いて、暫し考えた。
 そして、ここに帰って来るまで充分暖めてもらったお返しをするべく。
 朱璃は両腕を伸ばして、控えめに伯蓮を抱きしめ返す。

「こ、これで暖まりますか……?」
「……弱い」
「ええっ……」
「もっと、強く……」

 そう言われてしまっては、聞き入れなければならない。
 何せ相手は皇太子で、自分の主人でもあるお方。
 控えめだった腕の力をもう少しだけ強めると、伯蓮は更に強く朱璃を抱きしめた。
 このままこうしているのは、あまりに危険だと思った朱璃が、当たり障りのないように声をかける。

「あの、あまりこういうことは……見張りの方に見られると変な噂も立ちますし……」
「……問題あるか?」
「ありますよっ、伯蓮様は次期皇帝になられるお方で、私はただの侍女なのですから……」

 皇太子相手に誰もがわかる正論を言い放った朱璃だが、肝心の伯蓮からはなぜか笑い声が聞こえてきた。
 もしかしてからかっていただけなのか?と少しほっとした朱璃に、伯蓮はもう一度質問を投げる。

「では妃が相手なら問題ないということだな?」
「まあそうですね、こういうことは妃と……」
「ならば今から妃になればいい」

 とても冷静な声色で、だけどその内容はかなり理解し難くて。
 思わず顔を上げた朱璃は、伯蓮と目を合わせて確認した。
 するとそこにはいつも通りの真面目な伯蓮がいて、冗談ではないと感じた朱璃は慌てて訂正する。

「ちち違います! そういうことではなくて、私とではなくちゃんとした美しい妃と……」
「だから朱璃が妃になれば問題ないということだろう?」
「それはっ……! 先ほどから、何をおっしゃっているのですかぁ……」

 ついに困惑しはじめた朱璃に気づいた伯蓮は、少し意地悪がすぎたと反省した。