後宮を出るための門前に辿り着いた朱璃たちは、ようやく外で待たせていた関韋と合流する。

「伯蓮様! 朱璃殿! ご無事で何よりです」
「ご心配をおかけして、すみませんでした……」

 伯蓮の外套を身に纏い抱えられてきた朱璃と再会して、関韋も肩を撫で下ろした。
 自らの足で歩けないほどの出来事があったのだと推測した関韋は、伯蓮に向かって両手を差し出す。
 皇太子にいつまでも侍女を抱えさせるわけにはいかないという、侍従としての気遣いだった。
 しかし、伯蓮は無言のまま首を横に振って微笑みで応える。
 “このままでいさせてくれ”そう訴えていると感じて、関韋は仰せのままにと身を引いた。
 すると、伯蓮の背後にいた一人の男性に気がつく。

「ん? この者は一体……」

 関韋は男子禁制の後宮から出てきた、やけに美しい空色髪をした流を指差して軽蔑の眼差しを向けていた。
 あやかしが視えない人も、人間の姿をしたあやかしはどうやら見えるようで。
 朱璃と伯蓮はその新事実に、互いを見合って驚いた。
 すると、門番の二人も不審な男に向かって槍を向ける。

「おいおい、槍は洒落にならねぇって」
「心配ない。この者は……その、後宮に来たばかりの宦官だ」

 伯蓮の言葉に、ならば問題ない。と槍を納めた門番たち。
 しかし流は腕を組んで、今の伯蓮の言い逃れには納得していなかった。
 実際には宦官ではないし、むしろ美女が大好きな男(あやかし)だったから。
 そして関韋も同じく、伯蓮の上衣を着ている流について少し納得いかない表情をしていたのだが。
 ここではあえて言及しないことにした。

「関韋。先ほど尚華妃に謹慎処分を言い渡した。周知を頼む」
「それはまた急な……何があったのですか?」
「詳細は後ほど。こちらには流を供につけ先に蒼山宮に戻っている」
「かしこまりました」

 関韋は官庁街のある外廷に向け、夜間にもかかわらずその一報を知らせに走った。
 明日以降、出勤して知らせを聞いた豪子が伯蓮に抗議してくるだろう。
 その最終決戦を前に、同じく志を共にする貂々と、その陰謀を打ち砕かなければならない。
 そうしないと、伯蓮の恋心はいつまで経っても実らせることができないから――。