「その“流”とは、俺のことだ」
「…………え?」
「だからー、朱璃の手足の縄を解いて助けがくる間ずっと人肌で暖めていたのは、おーれ!」

 わけのわからない話と状況に、朱璃と伯蓮は顔を顰めた。
 しかし同じあやかしである貂々だけは、流だと名乗る男の話す意味がわかっている。
 そして、もっと上手に説明してやれとも思っていた。

「私たちあやかしは“元人間”なのだ」
「て、貂々⁉︎ 喋れるの⁉︎」

 久々に会えた貂々に元気が出てきた朱璃だが、話している姿に口を開けたまま固まった。
 今までどこにいたのか、何をしていたのか。
 聞きたいことはたくさんあったが、あやかしが元人間という驚きの情報に耳を傾ける。

「天の神の監視の下、あやかしは人間界で生活できている」
「天の神……」
「故に人間を脅かすあやかしは天の神によって処罰され、正しいあやかしにはご褒美が」
「それは、どんなご褒美?」
「あやかしが流星へ届けた願い事を叶える。というものだ」

 つまり流れ星に願い事をしたあやかしは、その願いを天の神に叶えてもらえるという話だった。
 言葉を話したいと願うあやかし。飛べるようになりたいと願うあやかし。
 もちろん、願い事の中には叶えられないものもあるようだが、それは天の神の匙加減で決まる。
 その話を聞いた伯蓮は、自責の念に駆られながら流に問いかけた。

「そこで流は“人間の姿になりたい”と願ったのだな?」
「そうだよ。あやかしの姿のままじゃ暖められないし、こういう時は人肌が良いって聞いたことが」
「流星なんて、見ようと思って見えるものでもないのに……」

 一日の流星の数は計り知れず、だが実際に目に見えるものはごく僅かな上に一瞬の出来事だ。
 流星を見た瞬間、自分の叶えたい欲望よりも朱璃を助けたいと思ってくれた流だから、今の人間の姿がある。
 そのことに感謝の気持ちでいっぱいの伯蓮は、自身が着ていた深緑色の上衣と飾りの腰帯を流に渡した。

「誤解してすまなかった。朱璃を助けてくれて、感謝する……」
「もういいよ。伯蓮にはいつもフカフカの(きん)の上で寝かせてもらってたし」
「……しかし、あの可愛らしい流の正体が、私と歳の近い男だったとは……」

 両手のひらに収まるほどに小さく、空色の毛並みが美しい流。
 つがいの星と共に部屋で面倒を見ていただけに、衝撃を受けるのは仕方ない。
 上衣を着てようやく普通の男として見れるようになった流に対し、伯蓮は複雑な心境を抱えた。
 そして朱璃の無事を確認し、流も発見できた今だから聞ける疑問を口にする。