書庫の一番奥の隅には、人間離れした空色の髪をうなじで束ねる見知らぬ男。
 そしてその男に背後から抱き抱えられる朱璃が、眠るようにぐったりとしていた。

「朱璃! 朱璃!」

 すぐに駆け寄った伯蓮は、その冷たい頬に触れながら名前を呼び続ける。
 最悪の事態が一瞬よぎったものの、すぐに朱璃の小さな寝息が確認できて肩を撫でおろした。
 唇は青白く、顔色も良くないが呼吸をしていることに安堵する。
 問題は意識のない朱璃を抱き抱えていた、この不審な男。

「お前は一体っ、いや、まず侍女をこちらに渡してくれないか」

 伯蓮はたくさんの質問を我慢して、朱璃の引き渡しを願い出た。
 すると不審な男は突然、伯蓮の首筋あたりの匂いを嗅ぎはじめて、軽蔑の眼差しを向けてくる。

「おいおい、催淫臭を纏った男に女を渡すなんて、無理に決まってんじゃ〜ん!」
「なっ、これは、飲まされたのだ!」
「まあどっちでもいいけど、その状態で女の体に触れない方がいいよ」
「くっ……」

 言われて何も反論できなくなった伯蓮だが、決して朱璃をどうこうしようなんて思っていなかった。
 しかし、完全に火照る症状が治まったわけでもなく、体内に薬が残る以上は触れない方がいいのかもしれない。
 ようやく発見できたのに、冷たくなった体を暖めてあげることもできないとは――。
 不審な男の勝ち誇ったような表情を前に、伯蓮は拳を握り締めて悔しさに耐えた。
 しかし、その隣にちょんと座った貂々が、冷静な声色と顔で不審な男に指摘する。

「お前こそ、全裸のくせに何を言っている」
「え……全……えっ……⁉︎」
「あ、バレた? だって普段から服なんて着せてもらってないもん」

 男の顔ばかり見ていた伯蓮は戸惑い、不審な男は頭を掻いて照れ笑いを浮かべている。
 こんなふざけた不審な男の指示など聞くか!という気になった伯蓮が、朱璃の体を力ずくで奪った。
 すると、朱璃を抱き抱えている時には確認できなかった裸体が、今ようやくお披露目される。

「こ、こんな変態に朱璃を触れさせていたなんて……!」
「はあ⁉︎ 違う、俺は変態じゃない! 全裸は仕方ないんだよ!」
「朱璃、私だ。目を開けてくれ」

 不審な男の主張を無視して、ひたすら朱璃に呼びかけた。
 伯蓮の腕の中に収まった朱璃は、その声に刺激されてピクリと瞼を動かす。
 そしてゆっくりと目を開けて、最初に見えた伯蓮の心配そうな表情に声を発した。