(貂々……!!)
妃に馬乗りされている光景なんて、できれば誰にも見られたくなかった伯蓮は、羞恥心に駆られた。
しかしそんなことはお構いなしの様子で、話せないはずの貂々が流暢に情報を伝えてくる。
「朱璃を見つけた。北の廟だ、早く来い!」
「っ⁉︎」
そう言って部屋の扉前に立ち「開けろ!」と指示する貂々。
朱璃を見つけたという言葉に力が漲ってきた伯蓮は、突然上体を起こして立ち上がった。
馬乗りになっていた尚華は飛ばされ、「きゃ」と声を出しそのまま尻餅をつく。
が、伯蓮は尚華のしたことを許したわけではないから、手は差し伸べずに部屋を出た。
すると部屋の外で待機していた宦官が、慌てた様子で駆け寄ってくる。
「伯蓮様⁉︎ どこか具合でも悪いのですか?」
「だ、大丈夫だ……それより悪いが、尚華妃を部屋から出さないように……!」
「へ?」
「謹慎を申し立てる!」
状況が把握できていない宦官から外套を受け取った伯蓮は、尚華への謹慎を言い渡した。
そして先を走る貂々の後を、熱を帯びた重い体のまま走って追いかけた。
動悸は激しく呼吸も荒い。相変わらず体の奥は熱いし、掻き立てられる感覚も残っている。
それでも貂々を追う伯蓮は、早く朱璃の無事をこの目で確認したかったから。
夜の後宮を北に向かいながら、伯蓮は貂々に問いかけた。
「貂々! どうやって朱璃を見つけたのだ……!」
「北の廟から助けを求める声をまたまた聞いたあやかしが、後宮内で言い回っていたのだ」
「え?」
「それをここに戻ってきた私が聞いた。が人間でなければ扉は開けられない」
朱璃は今閉じ込められている状況にあるとわかり、伯蓮は胸が痛んだ。
自分がもっと早くに尚華と対話ができていたら、朱璃が攫われることはなかったはず。
巻き込んでしまったことに顔を歪めた時、まるで経験者のように貂々が語った。
「後悔しているのなら、同じ過ちを繰り返さなければ良いだけのこと」
「っ……」
「それでも人は、また別の後悔をしてしまう生き物なのだから」
生きている限り、後悔することからは逃れられない。
ただし、後悔した経験を財産にして、繰り返さないように生きることはできる。
そう教えられた伯蓮は、人間のような考え方ができるあやかしの貂々を尊敬した。