しかし、せっかく声は出せるようになったのだから、いちかばちかで朱璃が大声で助けを求める。

「すみませーーん! 誰かいませんかーー!」

 もちろん廟の周囲には誰もいないし、気配もない。
 それでも声が聞こえて近寄ってきてくれたら、見つけてもらえる可能性は充分にある。
 懸命に大きな声を張り上げるが、出せば出すほど疲労は溜まった。
 それでも朱璃は、目一杯息を吸って声を出す。

「閉じ込められてますーー! 助けてくださーーい!」

 流の発見を早く伯蓮に知らせたい。
 だけど手足は縛られ体は自由に動かなく、寒くてうまく思考も働かなくなってくる。
 徐々に瞼が重たく感じて、何度も閉じそうになる時。
 足元にいる流が、小さな手でトントン叩き起こしてくれた。

「え、うそ。寝そうだった?」
「ミャ」
「どうしよう。眠ったら絶対だめなのに……そうだ! 流にお願いが」
「ミャウ?」
「私の指噛んで!」

 言いながら流に背中を向けた朱璃は、縛られた両手を見せて指先を動かした。
 ここだよ、と主張するようにして、流に噛み付くよう促す。
 痛みが走れば眠たくなることもないと思って、そう提案したはずなのだが――。

 ガブッ!
「……あまり、痛くない……」

 どうやら流にはそれほど鋭い歯はなく、噛まれても目を覚ますほどの激痛は感じられなかった。
 それだけでなく、朱璃の指先が異様に冷たくなっていて、ついに感覚がないことにも気づく。
 足の指先も同様で、確実に体が冷えに耐えられなくなっていることが表れはじめた。

「どうしよう、いよいよまずいかも……」
「ミャウミャーウ!」
「……そうだよね、諦めちゃ、ダメだよね……」

 流の鳴き声だけで何を言っているのか伝わった朱璃が、力無く微笑む。
 しかし、冷えてきた体を起こしているだけでも辛く感じて、朱璃はとうとうその場に倒れてしまった。
 横になれば一気に眠気に襲われることをわかっていても、震える体がいうことを利かない。
 目の前には流があたふたしながら、不明瞭な意識の朱璃を見守る。
 もしかすると後日、尚華の侍女が様子を見に扉を開けるかもしれないから。
 流にはその時にこの部屋を抜けてもらって、無事に伯蓮の宮に変えることができればそれで良い。