後宮の正門前までやってきた伯蓮と関韋。
 他の従者をつけず二人きりで現れたことに、門番の二人はかなり驚いていた。

「こ、皇太子殿下⁉︎」
「今朝、蒼山宮の侍女が後宮に入ったはずなのだが、まだ戻っていないのだ」
「い、今お調べいたします!」

 急ぎ記録帳を確認する門番を横目に、伯蓮は関韋と示し合わせるように視線を交わした。
 後宮内でも単独行動ができない伯蓮は、宦官らを引き連れて朱璃を探すことになる。
 そして男子禁制の後宮への立入ができない関韋は、朱璃との行き違い防止のため門前で待機。

「もしも朱璃が来たら、遣いをよこしてくれ」
「かしこまりました」

 すると門番は記録帳を何度も確認して、首を傾げながら伯蓮に伝える。

「入場記録はありましたが、退場記録が見当たりません」
「では連れ戻す。門を開けよ」
「か、かしこまりました!」

 記録帳を閉じた門番は威勢の良い返事をして、もう一人の門番は慌てて宦官を呼び出した。
 すっかり日が暮れた空は三日月と星々が輝いていたが、それらの光だけでは足りず。
 後宮の敷地内に設置された灯籠と、宦官らが持つ手持ち行灯の光が頼りとなる。

「伯蓮様、後宮にいらっしゃるなら事前にご連絡をいただかないと……」
「緊急なのだ。悪いが手分けして人を探してくれ。私の宮で働く侍女を」

 正門をくぐり後宮に入った伯蓮は、五人の宦官と合流した。
 しかし、ここへきた目的を話し朱璃の外見の特徴を説明して、すぐに各方面へと捜索に向かわせる。
 そうして一人の宦官だけが、付き人として伯蓮のもとに残った。
 少しずつ奥へと進んでいく伯蓮に、宦官は戸惑いながらも従うのみ。
 あちらこちらにあやかしの姿が確認できたが、宦官がいる手前、朱璃の行方を尋ねることはできない。
 すると、焦りが表情に出ている伯蓮に意外な人物の声がかけられた。

「まあ、伯蓮様ではありませんか」
「……尚華妃……」
「そんなに急いで、どうされたのですか?」

 まるで、伯蓮が来るのを予測していたかのように微笑みを浮かべた尚華が、華応宮の門前で立っていた。
 初夜の日以降、会うことを避けていた彼女を目の前にして、少し気まずさは覚えたものの。
 朱璃探しに急いでいた伯蓮は、ここは穏便に済ませたいと思った。