そうこうしていると華応宮に到着して、その門の前で三々と別れた。
 日没も近いから、中庭をちらっと確認することしかできない。
 そっと門を開けて、今日こそ貂々に会えますようにと願いながら、中庭目指して進んでいくと――。

 ガシ!
「な、なに⁉︎」

 突然数人の侍女に囲まれて、抵抗する間もなく取り押さえられた朱璃。
 無理矢理押さえ込まれた体は屈むしかなく、地面に膝をつけて動きを封じられる。
 背後に立つ侍女二人には左右の腕を掴まれていて、振り解くこともできなくなった。
 そこへ優雅に歩いてきたのは、嬉しそうに微笑む尚華。

「ふふ、懲りもせず毎日ノコノコやってくるのが悪いのよ」
「尚、華様……?」

 肉刑を下された日以降会っていなかった尚華が、目の前に立ち朱璃を見下ろしてくる。
 この状況を指示したのが妃だとすぐに理解して、なぜこんなことをするのかと尋ねようとした。
 しかし声に出すより前に、その口は長い巾で覆われ後頭部で玉結びにされる。

「んー!」
「勝手に喋らないで。あんたの命はわたくしが握っているんだから」
「っ……⁉︎」

 それは一体どういう意味なのか。
 初夜を妨害した恨みがまだ強くて、これから刑の執行をするのだろうか。
 それとも伯蓮の侍女に昇進したことが癇に障り、集団で暴行されるのだろうか。
 色んな憶測が頭の中をぐるぐると駆け巡ったが、おそらくその全てが当てはまりそうな状況。

「例の場所に連れていって。絶対に見つけられないようにしなさい」
「かしこまりました」

 尚華の指示は事前に計画していたような口ぶりで、侍女たちはすんなりと聞き入れて朱璃を立たせる。
 そして“例の場所”へと向かって歩きはじめた。
 華応宮の敷地内で起こった出来事。
 もう少し先に行けば中庭があって、貂々が戻ってきているか確認できたのに。
 それが叶わなくて眉を下げた朱璃は、今夜は蒼山宮に戻れないことを悟った。

(――どうしよう、ごめんなさい伯蓮様……!)

 そして、伯蓮に心配をかけてしまうことを考えて、胸が押し潰されるほどの苦痛を覚える。