そうして迎えたあやかし集会日当日。
公務を終えて蒼山宮に戻ってきた伯蓮のもとに、朱璃は夕餉を運ぶ係を任されていた。
「失礼いたしますっ」
いつもの明るい朱璃の声が聞こえて、部屋にいた伯蓮の表情がピッと引き締まる。
扉が開くと侍女としての風格が増してきた朱璃が、配膳台を押しながら登場した。
しかし、椅子に座って待機する彼には目もくれず、肉魚料理や野菜が盛られた大皿を一人で次々と机に並べていく。
そして筒杯に水を注ぎ手渡しする際、朱璃はようやく伯蓮と目を合わせた。
「あ、お待たせいたしました！」
「？ ……ああ、ありがとう」
違和感を覚えながら食事を開始した伯蓮だが、やはり気になって朱璃に視線を向ける。
すると何かに惚けているような表情をしながら、時折頬を赤くして口元を緩ませた。
そんな朱璃を見たことがなかった伯蓮は、侍従の関韋の存在も気にせず、個人的に声をかける。
「朱璃」
「は、はい！」
「……その。何か、良い事でもあったのか？」
尋ねられて我に返る朱璃は、伯蓮と関韋に見守られながら、今日の出来事を思い出す。
毎日必ず行う掃除と窓拭きに加えて、仲間の侍女が簪をなくしてしまい一緒に探したけれど、結局見つからなかった。
だから特別良い事は起こっておらず「いいえ」と答えようとしたのだが……。
この後、あやかしたちとの集会を控えているという現実に、再び顔が緩み笑い声が漏れた。
「ふ……ふふふ……」
たくさんのあやかしを交えた、夢のような集会。
できればあやかし好きの伯蓮も誘ってあげたいけれど、夜中の集合でもあるためそれはグッと堪えるしかない。
「ふ、普段通りでございますよ？」
「…………そう、か」
返事をしながらも腑に落ちない表情を浮かべた伯蓮は、朱璃にはぐらかされたことに気づいていた。
そして勝手に悲しい気分に襲われて、食べ物の味がわからなくなる。
関韋もそばに控えているから、朱璃と唯一共有できるあやかしについての会話も今はできない。
伯蓮の食欲は失せてしまったが、それでも食事をやめないのは。
少しでも朱璃と同じ空間にいたいと、そう思ってしまったから――。
