翌日の、太陽が一番高い位置にある頃。
 行方不明のあやかし、流の捜索開始かと思いきや。
 朱璃は今、昨夜までの職場だった後宮を再度訪れていた。

「やっぱりここにいた、貂々ー!」

 尚華が住む華応宮の中庭の木の上で、相変わらず昼寝をしていた貂々を発見する。
 昨夜以降、貂々がどんな様子で過ごしているか気になっていた朱璃は、少しだけホッとした。
 そして、諸々の報告を一方的に伝えはじめる。

「私、皇太子の宮で働きながら、とあるあやかしの捜索もすることになったんだ」
「……。」
「だから毎日は会えなくなるけど、後宮にきた時は貂々にも会いに来るから」
「……。」
「そうだ! 貂々も蒼山宮に遊びにきてよね? きっと伯蓮様も喜ぶし、他のあやかしのことも紹介したいし」

 微動だにしない貂々は、普段通りの寝息を立てている。
 それが何より安心材料となった朱璃は、自然と笑みをこぼした。
 だけど、ここで以前のようにのんびり過ごしているわけにもいかない。

「そろそろ戻らないと。じゃあまたね」

 蒼山宮での仕事がまだまだ残っている朱璃は、急ぎ足で中庭を出て行った。
 すると、昼寝をしていたはずの貂々はうっすらと片目を開けて、遠ざかる背中を黙って見届ける。
 そこへ慌ただしい足音を立てて建物から出てきたのは、尚華とその侍女たち。

「尚華様こちらで――あれ? さっきまで例の下女がいたのに……」
「は? 誰もいないではないか」
「そんな、本当にいたのです……」

 おそらく朱璃の姿を目撃した華応宮の侍女が、尚華に知らせたのだろう。
 しかし、あと一歩のところで朱璃は中庭を去り、入れ違いになったことを貂々だけは知っていた。
 そんなあやかしが木の上にいるとも知らず、尚華と侍女らは中庭内で会話を続ける。

「そもそも、昨夜あんなことをしでかしておいて、よくノコノコと後宮に現れたわね」
「尚華様に謝罪しにこられたのでしょうか?」
「謝罪など受けないわ! わたくしは今でもあの下女を肉刑に処したいほど憎んでいるのにっ」

 昨夜の騒動がなければ、尚華は伯蓮との閨事を無事に終え、気持ちの良い朝を迎えていたはず。