(え……それだけ? )


軽っ! と思ったのは一瞬だけで、逆に迷いがないようにも見えるのは自惚れだろうか。
「了解」の理由は、今も気持ちは変わってないって言われたみたいで、じわじわ頬が熱くなっていく。


「でも、あの、こ、これだけでは」

「そうよね。母親とのLINEじゃ、優冬はこんな感じなんだもの。春来は嘘っぽくお母さん子装ってくるんだけど、兄弟でも全然違うから……と、いうことで! ここからは本人からの告白タイムです!! 」


(ドンドンパフパフじゃないから……! )


「……終わった? 」


えぇ……という抗議すらできない声は、おばさんのセルフドンパフの前に無情にも散って。
いつからいたのか、リビングのドアの側に微妙な顔をして立っていたのは。


「グッドタイミングに説明終わらせたわ。後は、自分で頑張りなさい」

「……グッドって……ずっと待ってたんだけど。うん、それは了解」


「ありがとー」っていう抑揚のない声は、記憶にある優冬くんの声だったけど。


「……お疲れ」

「ひ、久しぶり」


おばさんと入れ違いにソファに座ったのは、何だか知らない人みたいだ。


「聞いた? 」


全然噛み合っていない返事に小さく笑うと、優冬くんは単刀直入に切りだした。


「そっか。……ダサいな。告白くらい、自分でしたかった」

「し、仕方ないよ。この場合が特殊すぎて……」


それもそうだ。
兄の元婚約者、実家のリビング。
あり得ない状況とあり得ない相手を前にして、話を進めるしかできるわけない。


「……だね。破談になった婚約者に弟を持ってくるとか、特殊でしかないよね。それは、俺のせいじゃやいけど。でも、ごめん」


(ということは、本当なんだ……)


「春来の浮気癖は知ってたのに、めぐに教えなかったのも。だから告白が今になって、こんな馬鹿げたシチュエーションになったのも俺のせい。……ごめん」


――本当に、ずっと好きでいてくれた。


「それも当然だよ。聞いてたとしても、きっと、疑いたくなっちゃってたと思うし」

「うん。でも、信じてもらえないことよりも、めぐに嫌われることの方が怖くて言う勇気がなかった」


今ですら、証拠が出揃ってからですら、私は何かの間違いだと願っていた。
付き合いたての若かったあの頃なら、そんなわけないって言い返してしまってたと思う。


「……でも、そうなんだね。つまり……初めてじゃなかったんだね、もちろん」


浮気癖。
一度や二度、一人二人じゃそんな表現にはならない。


「意味分からないよね。俺は大して好きでもない相手と密着するなんて絶対無理だし、触るのも触られるのも嫌だけど……まあ、これは一般的じゃないのは認める。性欲失くせとも言わない」

「……せ、え、と」


汚らわしいと言わんばかりに吐き捨て、どこか遠いところ一点を見つめた瞳には色がないようで――それなのに、激しい怒りも同時に孕んでいてギクリとする。


「そんなことして、めぐを失う恐怖ってあいつにはないのかな。まさか許されると思ってるんなら、うじ虫レベルのクズだし、それに」


なのに、ふと私の視線に気づいた時には、甘く微笑んでくれる。
それを見て確信した私は、騙されやすいんだろうか。


「やっぱり、全部知ってたのにそのままにしてごめん。春来が最低の奴だから成り立った告白も、卑怯でごめん。……でも、言わせて」


――俺は、絶対にしないよ。


優冬くんは、春来のそれとは違う。


(本気なんだ……)


また、何の根拠もなくそう思うなんて。