(な……何という展開……)


結婚目前に浮気した元彼の実家で、彼のお母さんに別の男をお勧めされ、しかもその相手が元彼の弟。


「そう思うと、結婚してなくて本当よかったわ! 結婚後だったら、家族になっちゃってて面倒なことになってたけど。ギリギリセーフ!! 」

「……いやあ、しっかりアウトじゃないですかね……」


失礼ながら、両手をパチパチしてる意味がまったく分からない。


「だ、第一。優冬くんと最後に会ったの、いつだったか分からないくらいですよ? 優冬くんだって、好きでもない相手、しかもお兄さんの元カノなんて嫌に決まってます」


両家の食事会には、一度だけ来てくれたけど。
最近だと本当にそれくらいで、まともに話もしてない。


「それは大丈夫。だって優冬、萌ちゃんのこと好きだもの」

「…………は? 」


ダメダメ、その声とその一文字はさすがに失礼極まりない。
でも、しまったと思った時には、一文字なんて一瞬で言い切ってしまっていた。


「やっぱり、気づいてなかったのね。優冬、ずーっと萌ちゃんに片想いしてたのよ。顔を合わせなかったのは、好きな人が兄の彼女になっちゃったから」

「ま、まさかー……」


元々、優冬くんは人見知りで活発な方でもなかったと思うから、誘っても来てくれることは少なかった。
でも、もし本当に、それが兄の彼女と一緒にいるのが辛いから、だったら――……。


(……どうしよう。ものすごく傷つけてたのかも)


おばさんが知ってたってことは、春来も気づいてたんだろうか。
知っていて、敢えて教えなかったのかな。
もちろん、知ってたからって何かできたわけじゃない。
困らせたくなくて、春来も言わなかったのかもしれない。
ううん、おばさんの勘違いっていう線が何より濃厚だ。
でも――……。

本当に、そうだったら。


(……会食だけでも、よく来てくれたな)


「優冬はね、春来みたいには目立たないし、爽やかな優等生タイプじゃないけど。その分そんな王子様の裏の顔みたいなのもなくて、一途だと思うわ。だから、浮気の心配はないし、そこはおばさん保証する! 」

「……春来の裏表はご存じだったんですね……」


「親だもの」の言葉どおり、私もそれは幼馴染みとして何度も見てきたはずだった。


「……幼馴染みって、怖いです」


何も知らない子ども時代の記憶は、時に残酷だ。
馬鹿なこともたくさん一緒にして、恥ずかしいことも共有してきた思い出が、他の女といるはずもないって錯覚させる。

――私は、特別だって。


「……萌ちゃん」

「で、でも。さすがにもう心変わりしてるかもしれませんし。大体、結婚ダメになったからって今更来られるのも迷惑ですよ。優冬くんに失礼です」


おばさんに謝らせそうになって、慌てて被せた。
私が春来を信じたことは、おばさんのせいじゃない。


「言ったでしょう、一途だって。私だって、いきなり萌ちゃんを呼んだわけじゃないのよ。ほら」


(私にとってはいきなりだし、ほぼ強制でしたが……)


心のなかでツッコミながら、差し出されたスマホを覗き込む。


『あのね、事情があって今萌ちゃんフリーなんだけど、優冬勧めといていい? 』


おばさんの直球すぎて、何の説明にもなっていないメッセージに対して、優冬くんの返信は。


『了解』