老人ホームに入るときに持っていけなかったんだろうか。

「でもあのピエロは二階の部屋にあったから、きっと美月ちゃんはネジを巻くこともできなくなってたんだと思う。私のおばあちゃんも足が弱くなってからは階段の上がり下りができなくなってたから」

「じゃあ、美月ちゃんはピエロと同じ家にいながら、ピエロに会うことができなかったのかな?」

私の問いかけに綾は「たぶん」と、頷いた。
それでも同じ家にいた頃はよかったんだろう。

ピエロは2階の出窓から美月ちゃんが寝起きする音を聞いていたかもしれないから。
「離れ離れになって寂しかったんだろうなぁ」

綾の声が空中に溶けて消えていったのだった。