「兄貴、お疲れ様です」
(しょう)、出迎えご苦労。トランクに荷物がある。話した通り部屋へ運んでくれ」
「はい」
「朔、真彩たちを客間へ案内しろ」
「分かりました!」
「俺は離れに寄ってから行く」

 朔太郎と翔という男にそれぞれ役割を言いつけると、理仁は車を降りて敷地内へ入って行く。

「ささ、二人共降りてください! 中へ案内します」
「は、はい! 悠真、降りるよ」
「はーい」

 朔太郎に促された真彩は悠真を連れて車を降り、彼に続いて門をくぐる。

 すると、広い庭と立派な邸宅に真彩は思わず息を飲み、これから自分はこんな立派な屋敷で働く事になるのだと改めて再確認しては、より一層不安が大きくなっていた。

 中へ入り、広い玄関ホールに長く続く廊下、飾ってある風景画や高価そうな壺に驚きながら15畳くらいはありそうな客間へ通された。

「暫くここで待ってて下さい!」
「分かりました」

 案内を終えた朔太郎は一旦部屋を出て行き、真彩と悠真の二人きりになる。

「ひろいおうちだね!」
「そうだね」

 悠真の言葉に相槌(あいづち)を打ちながら、真彩は改めて理仁について考えた。一体彼は何者なのかと。

 金銭面で会社社長か重役と考えていたが、どこかしっくり来ない。それに、優しい面はあるものの時折垣間見える威圧的な面や有無を言わせぬ物言いに、手の甲にあった龍の刺青。

 そして何より、先程車内で誰かと電話をしていた際、『うちの組』がどうとか話していた事に強い引っ掛かりを感じていた。