「あ? 何だテメェ」
「邪魔すんなよ……」

 突然現れ威圧的な態度で向かって来られた男二人は苛立ちながら理仁に喧嘩を売ろうとするも、

「す、すみません、失礼します!」
「あ、おい、何だよ……」

 黒髪男の方は理仁の事を知っているようで、分が悪いと思ったのか金髪ロン毛男を連れて逃げるように去って行った。

「大丈夫か?」
「理仁さん……」
「だから言ったろ? 不逞な輩はいるって」
「すみません、気を付けていたつもりなんですけど……」
「いや、離れてた俺が悪い。挨拶も済んだし、そろそろ行くぞ」
「は、はい!」

 持っていたグラスを返却した真彩は会場を出て行く理仁の後を追いかけた。

「翔、待たせたな」
「もう良いんですか?」
「ああ」

 駐車場に停めてある車に戻ると、既に待機していた翔太郎が二人を出迎え後部座席のドアを開ける。

「真彩さん、顔が赤いですけど、大丈夫ですか?」
「え!? あ、う、うん……大丈夫」
「何だ、ワイン一杯で酔ったのか?」
「そ、そうかもしれないです……」
「水、買ってきましょうか?」
「ううん、本当に平気だから!」
「そうか? なら出発するぞ。翔、頼む」
「はい」

 真彩の顔が赤いのは酔ったからではない。先程男たちに言い寄られていたところに割って入った理仁を思い出して、頬が赤くなったのだ。

(あの時の理仁さん、凄く格好良かった……)

 走る車の中で、真彩は思う。理仁は何故、いつも優しくしてくれて、困った時は助けてくれるのかと。

(深い意味は無いんだろうけど……あんな風にされると……平常心じゃいられないよ……)

 悠真が生まれ、シングルマザーとなった真彩はこれまで恋愛に興味を持たず、仕事以外で積極的に異性と関わる事すらなかった。生活していくだけでいっぱいいっぱいだった彼女は、いつしかトキメキという感情すら忘れていた。

(……何か、こういう感じ、久しぶりだな……。胸が、キュンとする……この気持ち)

「真彩、気分はどうだ?」
「大丈夫です」
「そうか。なら良い」

 真彩の体調を気遣い、優しげな瞳で見つめる理仁。

 真彩は、薄々気付き始めていた。自分が少しずつ理仁に惹かれ始めている事に。

(でも、この気持ちは所詮いっときのモノだよ……私はもう、恋愛なんてしない。悠真が大切だから、自分の事なんてどうでもいい。悠真さえ幸せならそれでいい)

 だけど、過去に辛い経験をした真彩にとって悠真が全てで、恋愛だけは二度としないと心に決めていたので、その気持ちに無理矢理蓋をしてしまいこんだ。