「あ……あの人……」

 初めに真彩が見つけたのは、テレビで観ない日は無いくらい人気の若手女優。その周りにはテレビや雑誌でよく目にする芸能人たちが多数集まっていた。

「鬼龍くん、今年も素敵な女性を連れているなぁ」
「これはこれは西条さん、今年もお招き頂き感謝します」
「いやいや、君とは常に良好な関係で在りたいからねぇ。それにしても、彼女はなかなかの美人じゃないか。良いねぇ、彼女も会社関係者かね? どうかな、少しばかり私に貸しては貰えないかな?」

 理仁に声を掛けてきたのはこのホテルのオーナーでパーティー主催者でもある西条(さいじょう) 高雄(たかお)。メディアにも顔を出す事が多いので真彩も顔と名前くらいは知っていたものの、会った印象はあまり良いものではなくて自然と笑顔が作れずにいた。

 その原因は西条の真彩を見る目と言動だろう。彼は綺麗な女性に目がなく、特に真彩は彼の好みの女性なようで、なめるような視線で真彩を見つめた後、まるで物を貸し借りするかの如く軽い口調で驚きの言葉を口にしたのだから。

 明らかに嫌悪感を抱き、若干引き攣った表情を浮かべる真彩に気付いた理仁はさり気なく背に庇いつつ、

「いえ、コイツは俺にとって特別な女性でして、物のように貸し借りをする様な事は出来ません。では、失礼します」

 終始表情を崩さずに西条と会話を交わした理仁は軽く会釈をすると、真彩の手を取って歩き出した。