「……ママ、このひとだれ?」

 ホテルに寄って荷物を取りに行き、その足で昨日の昼から預けていた託児所へ息子の悠真(ゆうま)を迎えに行った真彩。

 悠真は理仁を見るなり真彩の後ろに隠れるも興味津々の様子で観察していて、少し遠慮がちに誰なのかを問い掛けた。

「えっと、この人はママと悠真がこれからお世話になるお家の人で……」

 どう説明すればいいのかを考えながら、真彩は悠真になるべく分かりやすく説明してみるけれど、まだ幼い悠真には全てを理解出来るはずも無い。

「ゆうまとママ、このひとのおうちにいくの? このひと、ゆうまのパパ?」

 そして、何かを勘違いした悠真は理仁を『パパ』と言い出した。

「ち、違うよ、パパじゃないよ?」
「ちがうの……? おうちでいっしょのおとこのひとは、パパじゃないの?」
「あのね、悠真のパパは、お空にいるって教えたよね?」
「…………うん」
「だから、この人はパパじゃないよ?」
「……そっかぁ……」

 まだ四歳で父親がいないという状況をよく理解しきれていない悠真。

 最近では自分に『パパ』がいない事を悲しく思うようになり、テレビや周囲の家族を見て『お父さん』という存在にかなりの憧れを抱いているようで、男の人が一緒に住む=(イコール)お父さんという認識らしく、違うと聞いて落胆する。

「真彩、とりあえず車に行くぞ」
「あ、はい。悠真、行くよ」

 二人のやり取りを黙って見守っていた理仁がそう声をかけると、真彩は下を向いて落ち込む悠真の手を取って返事をして後に続いていく。

 五分程歩き繁華街から少し離れた細い裏道に差し掛かると、高級感漂う黒塗りのセダンが一台停まっていた。