「朔太郎くん、いつもごめんね。今日も悠真をよろしくお願いします」
「お易い御用ッスよ! 俺、子供嫌いじゃねぇし! ほら悠真、部屋まで競走だ!」
「さくにはまけない!」

 初日に飴を貰った事が嬉しかったのか悠真は朔太郎に気を許し、すっかり懐いている。

 それもあって朔太郎は理仁から悠真の面倒を優先的に見るように言い付けられているので、仕事が終わると必ず悠真の相手をしていた。

「それじゃあ姉さん、悠真の事は気にしないで仕事頑張ってください!」
「ありがとう」

 そんな朔太郎のおかげで静けさを取り戻した台所で、真彩は中断していた朝食の片付けを再開した。

(朔太郎くんは人懐っこいから悠真も懐いてて有難いな。でも『姉さん』って呼ぶのは何とかして欲しい……)

 別に呼び方くらい……とは思うけれど、強面の男や派手な風貌の男が外で『姉さん』と呼ぶと、周りはあまり良い反応をしないし、真彩自身周りから白い目で見られるのが嫌だったりする。

 ただ、呼び方については初めの方に話をお願いしてはみたものの、真彩は二十六歳、朔太郎は二十歳という事もあって朔太郎からすると真彩は姉のような存在らしい事、理仁の大切な女性という認識から真彩の呼び方は『姉さん』が妥当だと判断し、それ以外に呼べないと言うので諦めたのだ。

(まぁでも、皆私にも悠真にも良くしてくれるから……ここへ来て良かったな)

 初めは不安と緊張でミスをする事も多々あり落ち込んだ日もあったけれど、心に余裕が出来るとミスはしなくなり、強面の組員たちとも会話を交わせるようになって、仕事は大変だけど毎日楽しく過ごせている事が嬉しくもあり幸せだと感じていた。

(さてと、次は洗濯物干して、その後は掃除。午後は朔太郎くんとスーパーへ買い出し。頑張るぞ!)

 台所の片付けを終えた真彩はこれからの予定を頭の中で確認しながら、次々と仕事に取り掛かっていった。