見つめ合う二人は、恐らく同じような感情を胸に抱いている。

 けれど、どちらもそれを口に出す事はしない。

「……真彩、俺の話を聞いて欲しい」
「……はい」

 そんな中、本来の目的でもあった話を聞いて欲しいと真彩に確認すると、彼女が頷くのを確認した理仁は視線を元に戻して向かいにある景色を眺めたので、真彩もそれに倣って話を聞く事にした。

「聞いて欲しいのは、俺の過去の話だ――」

 そう前置いた理仁は、自身の過去を遡って話を始めた。

「俺の母親は、お前と同じで未婚のシングルマザーだったんだ」
「理仁さんのお母様も、私と同じ……」
「ああ。父親はとっくに死んだと聞かされて育ったんだが、実際は俺が小学校へ上がる頃まで父親になるはずだった男は生きていたんだ。ただ、その後借金を苦に自殺したと知ったがな」
「そう……だったんですね……あれ? だけど、理仁さんのお父様って鬼龍組の先代の組長さんだったと、以前朔太郎くんが……」
「ああ、義理だが、先代の組長は俺の父親になった人だった」
「お母様が先代の組長さんと再婚なさったんですね」
「いや、それは違う」
「え?」
「ここからは少し複雑なんだがな、俺の母親は当時から鬼龍組と敵対していた箕輪組の傘下組織にあたる難波(なんば)組という組織の若頭と恋仲になって、俺を捨てたんだ」
「そんな……」
「まぁ、捨てられたのは俺が高校に入った頃だったから、自立出来る年齢で大して困りはしなかったけどな。先代――義父(オヤジ)と出逢ったのは、その頃だった。母親に多少の金は貰っていたが、それだけじゃ暮らしてはいけないからバイトを探してる時に知り合って、事情を話すと仕事を紹介してくれたんだ」

 理仁の話は真彩が思っていたような過酷さはなく、先代の組長にとにかく可愛がられていた事を知る。