「好きな人いる?」

 小学校六年生のときの、理科の実験中。

 その日は爽やかな風が吹き抜ける、夏の日だった。

 同じ班だったきみが授業のノートをとりながら、唐突にそう言ったのは。

 きみの髪にかかる太陽の日差しがまぶしくて、ぼーっと見ていたわたしにとって、それは青天の霹靂のような質問だった。

 班のほかのメンバーは実験に夢中で、わたしたちの方には目もくれていなかった。

 きみにそう聞かれたのはほんとうに突然で、なんの前触れもない。

「……(あきら)は、いるの?」

 びっくりして、思わず質問で返しちゃった。

 こちらを見向きもせずに、口だけで言われた言葉は、わたしを緊張させるのにじゅうぶんな威力を持っていたから。

 亮に聞かれて、どきっとしたんだ。

 だって、そう聞いてきたきみこそが、わたしの好きな人だったから。