「……いなかったと思うよ、たぶん」

「そっかー。じゃあ、陽菜ちゃんが初カノかあ」

 "初カノ"

 その響きは重くて、苦くて、わたしの心に暗い影を落としたみたいだった。

「あーあ、あたしも志田くん狙ってたのになあ」

 凪ちゃんはむっと唇をとがらせている。

「あはは、やっぱ人気だね」

「人気も人気だよー! かっこいいし、背も高いし。うちの小学校にはあんな人いなかったよ! 町田小はレベル高いよ! ……気に食わないけど、梨木陽菜もね」

「……そっか」

 わたしたちの住むこの町は少子化が進んでいて、合併のためいくつかの中学校が閉鎖になった。

 近隣三校に通う小学生は一部の中学受験組を除いて、いまわたしが通う東中学校にみんな通うことになる。

 それでもひと学年、たったの二クラス分にしかならない。

 小学校の頃、三校交流会といって学校同士のイベントがいくつかあった。

 だけど、そんなものも片手で足りるほどしかないから、入学時違う小学校に通っていた子とはほぼ初対面のようなものだった。

 凪ちゃんとも、二年に上がったクラス替えで初めて話したくらい。