「そうだよー。全員同じ小学校で、陽菜ちゃんはマーチングバンドで一緒の楽器だったんだ」

 わたしが通っていた小学校では、五、六年生がマーチングバンドを運動会で披露するという風習がある。

 六年生が同じ楽器の五年生に指導して、それが毎年毎年繰り返されていく。

 わたしはグロッケンっていう金属製のバーが並べられたものをばちで叩く、いわば鉄琴のような楽器の担当だった。

 ひと学年ひとりっていう担当者の少ない楽器だったから、陽菜ちゃんとほぼマンツーマン。

 学年は違うけどそれでよく話すようになって、陽菜ちゃんもわたしのことを慕ってくれていた。

 かわいくて喋ると楽しくて、わたしは陽菜ちゃんのことを妹のように思っていた。

 いまとなっては、どんな顔をしていいのかわからないけれど……。

「ふーん、そうなんだ。志田くんってモテるのに、小学校の時は彼女いなかったの?」

 陽菜ちゃんのことにはさして興味もないようで、まるで本題とばかりに亮の話題になった。

 その言葉を聞いて、またあの日のことを思い出す。

 ……もしかしたら初めての彼女はわたしだったかもしれないのにな、なんてばかげたことを考えてしまった。