でも、まりかの書いた文字が消えたのが偶然で、あのときのまりかを信じるとしたら。

 そうだとしたら俺が奪われたのはなんだって、考えてた。

「考えて、わかったんだ。奪われたのは、未来なんかじゃないって。俺が"あの時大好きだったまりか"のことを、あいつは奪っていったんだ、って……」

 まりかがこだわっていた「変わる」って言葉だけが、どうしてもずっと引っ掛かっていた。

 でも、それだってピンときた。

「どういうこと……?」

「俺が好きだったあの頃のまりかは、もういないだろ」

 あの頃俺は、臆病なのに俺を守ろうとするまりかのことを好きになって、そんなまりかを一番大切に思ってた。

 まりかは変わった。

 俺を救ったヒーローみたいなまりかはいまはいなくて、きっといまは周りと同じように陰口のひとつやふたつ叩いたり、俺を守ろうとあえて矢面に立つことはないんだろう。

 この前のクラスであった喧嘩みたいに。

 そう変えてしまったのは、俺だ。

 神様が本当にいて俺の大切なものを奪ったんだとしたら、まりかの中のまりからしい良いところを、俺が奪ったようなものだ。

「だから、まりかには絶対、あのまじないをやってほしくなかった。俺みたいな思い、させたくなかったんだ」