「先に手を出したのはまいみだ、って。見てたから知ってる、って。まりか、おまえが言ったんだよ」

 亮の顔はもうずっと、泣きそうだ。

 わたしが覚えていないわたしのことを噛みしめるように話す亮の言葉から、たったひとつの感情がわたしに伝わってくる。

 これはきっと思い違いなんかじゃないって、心からそう思える。

「まりか、人前で意見言うのはすげー苦手だったじゃん。なのに震えながら、みんなの前で先生に言いきってさ……。先に謝るのはまいみの方、なんて一生懸命俺を守ろうとしててさ……」

 ……ああ、たしかにそんなことがあったかも。

 でもそんなふうに勇気を出したのは、亮のためでもあって、自分のためでもあった。

 その頃にはわたしはもう、とっくに亮のことが好きだったから。

 幼いながらに亮のことを守れるのはわたしだけって、思ったんだった……。

「あの瞬間、しびれたね。まじで。俺にはまりかだけだって、あのときそう思ったんだ」

 生温い風がわたしたちの足元を駆け抜けていった。

 ……亮の言いたいことが、はっきりと伝わってくる。

 ただ、どんな顔をしていのかわからない。

 ……だってこんなの、想像すらしてなかった。