「じゃあ、俺からはこれを結衣に。メリークリスマス」

「ありがとう!開けてもいい?」

「どうぞ」

私はワクワクと、受け取った小さなケースを開ける。

次の瞬間、目を見開いて言葉を失った。

「こ、これ…」

ケースの中にはダイヤモンドが輝く指輪。

(え、まさかこれって…)

信じられない思いでじっと指輪を見つめていると、「結衣」と優しい声で呼ばれた。

「俺達はまだ大学生になったばかりだ。特に俺は、これからますます勉強漬けになる。今すぐの話ではないけど、俺の気持ちは決して変わらない。結衣、俺が卒業して医師としてきちんと働き始めたら、その時は…」

工藤くんは真っ直ぐに私を見つめて告げた。

「結婚しよう、結衣」

私は一気に涙を溢れさせる。

「婚約指輪にしては、ダイヤも小さくてごめん。なかなかバイトの時間が取れなくて…。でも結婚する前に、改めてちゃんとした指輪を贈るよ。キラッキラでピッカピカの、でっかいダイヤの指輪を」

思わず私は吹き出して笑う。

「やだ!そんなのいらない。私はこの可愛くてきれいな指輪がいいの。ずっとずーっと大切にする」

目に涙を浮かべたまま笑いかけると、工藤くんは優しく微笑んでくれた。

「ありがとう、結衣」

そしてケースの中から指輪を手に取ると、私の左手をそっと下からすくい、薬指にゆっくりとはめてくれる。

「わあ…、きれい」

目の高さに指輪を掲げて、私はうっとりとする。

大切な人に愛を込めて贈られた指輪に、私は幸せで胸がいっぱいになった。

「結衣のきれいな指によく似合ってる」

「ほんと?ふふっ、嬉しくていつまでも見とれちゃう。サイズもぴったり!どうして分かったの?」

「いや、分かんなかったから、店員さんに言ったんだ。可愛い彼女だから、指のサイズも可愛いと思うって」

は?!と私は一気に真顔になる。

「嘘でしょ?ほんとにそんなこと言ったの?」

「ああ、苦笑いされたけどね。もし合わなかったらサイズ直ししてくれるって。どう?大丈夫そう?」

「うん!もう絶対これは外さない。世界でたった1つの私の大切な指輪だもん」

「ははっ!そっか」

工藤くんは目を細めて私を見つめたあと、急に何かを思い出したようにハッとした。

「ん?どうかしたの?」

「結衣、肝心の返事聞いてない」

「返事って、何の?」

「俺のプロポーズ」

あ…、と私も真顔に戻る。

「私、返事しなかったっけ?」

「うん、もらってない」

「そうだった?あー、工藤くんが変なこと言い出すからだよ。ギラッギラのゴッテゴテのダイヤとか、指輪のサイズも可愛いとか」

「ゴッテゴテは言ってない」

「いや、とにかく!話の腰折ったのは工藤くんだからね」

「なんだよー。でも結衣、嬉しそうに指輪はめてくれたもんな。じゃ、OKってことで」

「ちょっと!軽く流さないでよ。こんな大事なこと」

私は少しうつむいてから、顔を上げて真っ直ぐに工藤くんを見つめた。

「工藤くん。私、こんなに誰かを好きになったことなかったの。こんなに幸せな気持ちにさせてもらったことも、こんなに優しく包み込んでもらったこともない。工藤くんと出逢ってから、私の毎日はキラキラ輝き出したの。工藤くんが私の幸せの始まり。この先もずっとずっと、工藤くんと一緒にいたい。だから工藤くん、私と結婚してください」

「結衣…」

切なそうに愛しそうに目を潤ませて、工藤くんは私をギュッと胸に抱きしめる。

「ありがとう、結衣。結婚はまだ先でも、結衣は俺のたった一人のフィアンセだよ」

「ふふっ、ありがとう。工藤くんも、私の大切な未来の旦那様だよ」

温かい工藤くんの腕の中で、私は身体中に幸せが広がるのを感じた。

「結衣…。キスしていい?」

耳元でささやかれ、私はふっと笑みを漏らす。

「うん、いいよ」

工藤くんは嬉しそうに私を見つめてから、ゆっくりと顔を寄せて、優しくキスをしてくれる。

照れて真っ赤になる私に笑ってから、工藤くんはもう一度、愛を注ぐようにうっとりするほど甘い口づけをくれた。

窓の外に静かに降り積もる雪。

一年で一番ロマンチックなクリスマスに、世界で一番の幸せ者になれた気がして、私はいつまでも工藤くんの腕に抱きしめられていた。