クリスマスディナーをレストランで楽しんでから、私達はチャペルへと向かった。

「わあ、きれいね」

「ああ。自然と調和してる内装がいいね」

木の温もりが感じられるチャペルは、天井がドームになっていて、月明かりがほのかに射し込んでくる。

ここで結婚式を挙げられたら、どんなに素敵だろうと思いながら、私は空いている前の方の席に工藤くんと並んで座った。

大きなクリスマスツリーが輝く静かなチャペルの雰囲気はとてもロマンチックで、私は早くも夢見心地になる。

コンサートは、ピアノとヴァイオリン、声楽や弦楽四重奏など、思っていた以上に本格的で、生で聴くクリスマスの名曲に、私はうっとりと酔いしれた。

「はぁ、とっても素敵だったね。聖夜のコンサートって感じで、なんだか心が浄化されたみたい。私の中の毒素が抜けていったかも」

「あはは!結衣に毒なんてある訳ないよ」

「そんなことないよ?工藤くんが他の女の子としゃべっただけで、ムキーッてなっちゃうもん」

「そんな結衣、可愛くて仕方ない」

「またそれー?もう…」

いつものやり取りをしながら手を繋いで部屋に戻ると、冷蔵庫から小さなホールケーキを取り出した。

夕食を食べたレストランで、帰り際に「お部屋でお召し上がりください」と渡してもらったケーキだ。

紅茶を淹れてソファに座り、二人でビターチョコのクリスマスケーキを食べる。

「もうなんて素敵なクリスマスなの。私、一生分の幸せを今日一日で味わってる気がする」

「なに言ってんの。結衣はまだまだ幸せになるよ。俺が一生かけて、結衣を幸せにしてみせるから」

「工藤くん…」

思わぬ言葉に、私は顔を赤らめてうつむく。

「あ、そうだ!大事なことを忘れてた」

私は思い出して立ち上がり、バッグの中からラッピングされた四角い箱を取り出した。

「はい、工藤くんにプレゼント。メリークリスマス!」

「え…、ありがとう。すごく嬉しい」

「ふふっ、開けてみて」

なんだろう?と言いながら、工藤くんはラッピングペーパーを開いて、箱の中のケースを手に取る。

「うわ、すごい…」

ケースを開けて、工藤くんは驚いたように動きを止めた。

「こんなにかっこいい腕時計を、俺に?」

「うん。工藤くん、忙しいから時間を大切にして欲しくて」

「ありがとう!毎日着けるよ。これで結衣をいつも近くに感じられる」

早速腕にはめた工藤くんは、そっと手で触れてから、嬉しそうに笑いかけてくれた。

「ずっと大切にするよ、ありがとう結衣」

「ふふっ、どういたしまして。そんなに喜んでもらえると、私も嬉しい」

アルバイト代が1ヶ月分飛んでいったけれど、工藤くんに永く使えるものをプレゼントできて、私も嬉しかった。