「おーい、樋口。マッチングの件で話があるんだ」
3日後。
授業を終えて帰る支度をしていると、鷲尾先生に声をかけられ、私は相談室へと連れて行かれた。
「早速だが樋口。2組の工藤は知ってるか?同じクラスになったことはないと思うけど」
「はい、もちろん知っています。常に学年成績トップの彼を知らない人は、我が校にはいません」
「確かに。じゃあ、工藤が相手でもいいか?」
「…は?相手とは?」
「だから、課外活動の相手だよ」
え、それって…と、私はしばし宙に目をやる。
「私が彼と異性交遊する、ということでしょうか?」
「ああ、そうだ。樋口はアンケートに、相手の希望は特にないって書いてあったよな?工藤も同じだった。で、2組の先生と相談して、お前達なら話も合うかなと思ってさ。ほら、工藤は学年トップ、樋口は学年2位だからな」
「はあ…。ですが、先方のご意向はいかがでしたでしょうか?私でも異存はないと?」
「今、2組の先生が聞いてる。どうだ?工藤がOKなら、樋口もそれでいいか?」
「はい、まあ。そうですね。これも何かのご縁ですし、謹んでお受けしたいと存じます」
「そうか、分かった。それにしても、相変わらずお堅いな、樋口は。なんか俺、仲人みたいな気分になってきた。ははは!」
明るく笑い飛ばす先生に、私は前のめりで質問する。
「あの、先生。活動内容をまとめたレポートが成績に考慮されるとのことでしたが、具体的にどの観点でどのようなポイントを評価されるのでしょうか?」
すると先生は、困ったように頬をぽりぽりと掻く。
「それなんだよなぁ。評価に関しても学校に任せるってことなんだけど、先生達も初めてのことで戸惑ってるんだ。まあ、よほど手抜きのレポートとか、高校生らしからぬ行為が書かれていたら減点だろうけど、基本的に周りとそんなに差はつかないと思うぞ」
そうですか…と、私はうつむく。
「なんだ?樋口のことだから、成績を気にしてるのか?確かに学問ではないから、勉強の仕方も分からなくて困るよな」
「そうなんです!」
私はパッと顔を上げて、早口でまくし立てた。
「受験科目なら、勉強方法が分かりますし過去問もあります。ですが私、異性とのおつき合いなんてしたこともなければ想像もつきません。それなのに、レポートを評価されるなんて…。もう私、自信がなくてどうしていいのか」
先生は両腕を組んで、真顔になる。
「うーん。成績優秀な生徒ほど、今回の件は戸惑いが大きいだろう。けどな、樋口。政府のやり方は無茶苦茶だと思うだろうけど、先生はこれも大事な経験になると思うんだ」
「大事な経験、ですか?」
「ああ。樋口はきっとこのまま、偏差値の高い大学に入学して、世間でも名の知れた有名企業に就職できるだろう。だけど社会に出れば、頭の良さだけでは通用しない場面も多くなる。処世術や経験値、それから人とのコミュニケーション能力だって、仕事をする上では大切なんだ」
確かにそうだと、私は真剣に耳を傾ける。
「だからな、樋口。最初は手探りでいいから、少しずつ工藤と一緒に時間を過ごしてみろ。レポートの評価なんて、気にしなくていい。樋口が、人生において大切な時間を過ごせていると感じられたら、それはこの先お前の大きな武器になる」
じっと先生の言葉を噛みしめてから、はい、と私は頷いた。
3日後。
授業を終えて帰る支度をしていると、鷲尾先生に声をかけられ、私は相談室へと連れて行かれた。
「早速だが樋口。2組の工藤は知ってるか?同じクラスになったことはないと思うけど」
「はい、もちろん知っています。常に学年成績トップの彼を知らない人は、我が校にはいません」
「確かに。じゃあ、工藤が相手でもいいか?」
「…は?相手とは?」
「だから、課外活動の相手だよ」
え、それって…と、私はしばし宙に目をやる。
「私が彼と異性交遊する、ということでしょうか?」
「ああ、そうだ。樋口はアンケートに、相手の希望は特にないって書いてあったよな?工藤も同じだった。で、2組の先生と相談して、お前達なら話も合うかなと思ってさ。ほら、工藤は学年トップ、樋口は学年2位だからな」
「はあ…。ですが、先方のご意向はいかがでしたでしょうか?私でも異存はないと?」
「今、2組の先生が聞いてる。どうだ?工藤がOKなら、樋口もそれでいいか?」
「はい、まあ。そうですね。これも何かのご縁ですし、謹んでお受けしたいと存じます」
「そうか、分かった。それにしても、相変わらずお堅いな、樋口は。なんか俺、仲人みたいな気分になってきた。ははは!」
明るく笑い飛ばす先生に、私は前のめりで質問する。
「あの、先生。活動内容をまとめたレポートが成績に考慮されるとのことでしたが、具体的にどの観点でどのようなポイントを評価されるのでしょうか?」
すると先生は、困ったように頬をぽりぽりと掻く。
「それなんだよなぁ。評価に関しても学校に任せるってことなんだけど、先生達も初めてのことで戸惑ってるんだ。まあ、よほど手抜きのレポートとか、高校生らしからぬ行為が書かれていたら減点だろうけど、基本的に周りとそんなに差はつかないと思うぞ」
そうですか…と、私はうつむく。
「なんだ?樋口のことだから、成績を気にしてるのか?確かに学問ではないから、勉強の仕方も分からなくて困るよな」
「そうなんです!」
私はパッと顔を上げて、早口でまくし立てた。
「受験科目なら、勉強方法が分かりますし過去問もあります。ですが私、異性とのおつき合いなんてしたこともなければ想像もつきません。それなのに、レポートを評価されるなんて…。もう私、自信がなくてどうしていいのか」
先生は両腕を組んで、真顔になる。
「うーん。成績優秀な生徒ほど、今回の件は戸惑いが大きいだろう。けどな、樋口。政府のやり方は無茶苦茶だと思うだろうけど、先生はこれも大事な経験になると思うんだ」
「大事な経験、ですか?」
「ああ。樋口はきっとこのまま、偏差値の高い大学に入学して、世間でも名の知れた有名企業に就職できるだろう。だけど社会に出れば、頭の良さだけでは通用しない場面も多くなる。処世術や経験値、それから人とのコミュニケーション能力だって、仕事をする上では大切なんだ」
確かにそうだと、私は真剣に耳を傾ける。
「だからな、樋口。最初は手探りでいいから、少しずつ工藤と一緒に時間を過ごしてみろ。レポートの評価なんて、気にしなくていい。樋口が、人生において大切な時間を過ごせていると感じられたら、それはこの先お前の大きな武器になる」
じっと先生の言葉を噛みしめてから、はい、と私は頷いた。