水槽の見えるレストランで昼食を食べ、イルカショーを見ると、最後におみやげのグッズを選ぶ。

せっかくだから何かお揃いで買いたいと、私はKのイニシャル、工藤くんはYのイニシャルのキーホルダーを買って交換した。

イニシャルの横にはイルカがついていて、大人っぽいデザインだ。

「ふふっ、大学生になっても毎日これを持ち歩こう」

キーホルダーを目の高さに持ち上げてそう言ったあと、私はふいに思い出した。

(そうだ。大学生になったら、工藤くんとは学校が違うんだ。もう毎日会えなくなる…)

思わずうつむくと、工藤くんが顔を覗き込んできた。

「結衣?どうかした?」

「うん、あの。明日卒業したら、工藤くんとはもう学校で会えなくなるんだって思ったら、寂しくて…」

「結衣…」

工藤くんは私の両手を握って正面から向かい合う。

「会いたくなったらいつでも連絡してきて。すぐには無理でも、必ず時間を作って会いに行くから。分かった?」

「でも、迷惑じゃない?工藤くん、勉強忙しくなるでしょう?」

「どんなに忙しくても、たとえ5分しか会えなくても、必ず結衣のもとに駆けつけるから。約束する」

「工藤くん…」

私は胸がいっぱいになる。

その言葉だけで、充分心が満たされるのを感じた。

「ありがとう、工藤くん。私も勉強がんばるね。どうしても会いたくなったら、こっそり工藤くんの大学に行って、柱の影から覗くから」

「あはは!それ、逆に怖いって。ちゃんと俺に声かけて」

「でも妙な噂が立ったら困るでしょ?変な子が追っかけに来てるって」

「どこが変なの?可愛い彼女が会いに来てくれるなんて、最高に幸せだよ、俺」

私はまた顔が赤くなる。

いつもこうだ。

工藤くんはいつだって、私が照れて真っ赤になるくらい、優しくて甘い言葉をくれる。

(離れていても、寂しくない。工藤くんは、こんなにも私を想ってくれてるんだもん)

幸せな気持ちが込み上げてきて、私は工藤くんに笑いかけた。

「ありがとう。私、優しい工藤くんのことが心から大好き」

工藤くんは驚いたように目を見開いてから、嬉しそうに目を細める。

「俺も。結衣のことが可愛くて仕方ないよ。心から結衣が大切で、大好きだ」

そして身を屈めると、そっと私の耳元でささやく。

「今すぐ結衣を抱きしめてキスしたいけど、人がたくさんいるから明日にお預けね」

明日?!と、私は思わず驚いて顔を上げる。

「明日って、卒業式だよ?」

「そっ!高校生としての最後の日。学校でいい思い出作ろうな」

「え…、いい思い出?」

なぜだろう。
工藤くんが不敵な笑みを浮かべているように見えるのは…

私はさっきまでのキュンとした気持ちを忘れて、工藤くんの様子を怪訝な面持ちでうかがっていた。