次の日。
待ち合わせた駅前で、私は工藤くんの姿を見つけて笑顔で駆け寄る。

「おはよう!工藤くん」

「おはよう、結衣。今日は一段と可愛いな」

「えへへ、張り切ってオシャレしてきた」

肩まで伸びた髪をくるっとカールさせ、春色の淡いピンクのワンピースにオフホワイトのショートボレロ。

胸元にはもちろん、オープンハートのネックレスが輝いている。

「嬉しいけど可愛いすぎて心配だから、絶対に俺のそばから離れるなよ?」

そう言って工藤くんは、しっかりと私の手を握る。

工藤くんも、ブルーのシャツで爽やかさ満点だった。

「それで、今日はどこに行きたい?」

「えっとね、水族館!」

「お、いいね」

二人仲良く恋人繋ぎで、水族館を目指す。

今日はもう、何をしても何を見ても、楽しくて仕方ない。

「わあ、見て見て!ラッコだよ。可愛いねえ」

「ラッコ見て笑顔になる結衣が一番可愛い」

「やだ、工藤くんってば。何言ってるのよ、恥ずかしい」

「恥ずかしがる結衣も可愛い」

「もう、工藤くん!」

「あはは!怒った顔も可愛いな」

ムーッと拗ねるけれど、工藤くんは更に面白そうに笑っている。

ま、いいか、と私もつられて笑顔になった。

「ね、初めてのお試しデートのこと、覚えてる?」

私は歩きながら聞いてみた。

「あー、覚えてるけど、単に学校の活動として淡々とこなしてたな」

「そうそう、淡々とね。それで私、工藤くんの下の名前を思い出そうとしたんだ。タンタンじゃなくて、何だっけ?って」

「あ、思い出した!あの時、結衣、担々麺とか妙なこと言い出したよな?」

「ふふ、そうなの。タンタンじゃなくて、ケンケンだ!って」

「あー、言ってた!俺その時、何だこいつ?って思ったもん」

「えっ、そうなの?」

「うん。今だから言うけど、変わった子だなって思ってた。学校の課外活動じゃなきゃ、一緒に行動することもないなって」

「えー、なんかショック」

「いや、でも、そこからは一気に結衣に惹かれていったよ。時々にっこり笑ってくれるとドキッとして、俺のこと努力の人だって褒めてくれると嬉しくて。医学部の実習見学の時なんて、俺の袖を握って背中に隠れてさ。もう最高に可愛くて仕方なかった。結衣が、来年の今頃は接点もなくなるって言った時、すごく寂しくなった」

「あー、確かに言ったかも。オープンキャンパスの時だよね」

「うん。俺、あの時にはもう結衣のこと好きだったんだと思う」

「そうなの?」

「ああ。いや、でももっと前なのかも?一度だけ、結衣と言い争いになったことあっただろ?」

「うん、あった」

「あのあと、ものすごく後悔した。結衣が離れていったらどうしようって」

「そうだったんだ。悪いのは、甘い考えをしてた私の方だったのに。でもそのあと工藤くん、また連絡してくれて、電車の中でごめんって言ってくれたよね?とっても嬉しかった」

「結衣もごめんなさいって言ってくれて、俺も嬉しかったよ。これからも、もしまた言い争いになったら、俺きちんと謝るから。その度に仲直りしよう」

「うん!私もきちんと謝る。ケンカしても必ず仲直りしようね」

「ああ」

私達はお互いに微笑み合う。

この先に何があっても、二人で一緒に乗り越えていこう。

工藤くんとなら、どんなことも乗り越えられる。

私は繋いだ手をキュッと握りしめて、もう一度工藤くんに笑いかけた。