「そう言えば、学校に連絡した?」

「あ、忘れてた!鷲尾先生に、結果が出たら電話してくれって言われてたのに」

「俺も言われてた。じゃあ電話するか」

私達はそれぞれのスマートフォンで電話をかける。

私はすぐにプルッと繋がったが、工藤くんは「話し中だ…」と呟いて手を下ろす。

「あ、そうか。私がかけてるからか。あはは!」

思わず笑ってしまった時、「はい、南ケ丘高等学校です」と聞き覚えのある声がした。

「もしもし、3年1組の樋口ですが…」

「おっ、樋口か!」

「鷲尾先生ですか?あの、第一志望校の結果が出ました」

「うん。それで?どうだった?」

先生が固唾を飲んで緊張しているのが分かる。

「はい、合格を頂きました」

「おお!そうか、やったな!おめでとう!いやー、良かった。よくやったな、樋口」

「ありがとうございます」

「それでさ、樋口。ひょっとして今、工藤と一緒にいるか?」

え…、と思わず私は工藤くんの顔を見る。

「2組の先生も、いや、学校中の先生が工藤の結果を気にしてるんだけど、まだ連絡なくて。樋口、もう知ってるのか?」

「いや、あの、どうして私が工藤くんの結果を…?」

もしかして、つき合っていることがバレているのだろうか?とアタフタする。

「それはいいから!どうなんだ?知ってるのか?」

「えっと、では、工藤くんに代わります」

「やっぱり一緒にいたのか!分かった、俺も2組の先生に代わるから」

私はスマートフォンを工藤くんに差し出す。

話を聞いていた工藤くんは、頷いて電話に出た。

「もしもし、工藤です。はい、無事に合格しました」

キャー!ワー!という賑やかな声が、私の耳にも聞こえてきた。

2組の担任はまだ若い女の先生で、興奮気味に、おめでとう!と繰り返している。

「ありがとうございます。はい、はい。では、明後日の卒業式で。はい、失礼します」

通話を終えると、工藤くんは苦笑いしながら私にスマートフォンを返してくれる。

「耳がキーンってなった」

「あはは!私も聞こえたもん。もう学校中の先生が歓声上げてたよね。我が校始まって以来じゃない?日本トップの大学の医学部に合格するなんて。改めて、工藤くんはすごい人なんだなって思った。いいのかな?私なんかとつき合ってて」

「なに言ってるの。俺が結衣を好きなんだ。誰よりも大切な人だよ」

「あ、ありがとう…」

合格の嬉しさと、久しぶりに工藤くんに会えた幸せと、こんなに甘い言葉をかけてもらえた喜びと。

とにかく私は、今世界で一番幸せ者なんじゃないかと思った。

「結衣、今日は家族の人とお祝いだろ?明日、改めて二人で会わない?」

「うん、会いたい!」

「じゃあ、どこに行くか考えておいて。二人でお祝いしよう」

「分かった。あー、楽しみ!」

「俺も。楽しみすぎて眠れそうにないかも」

「あはは!工藤くんたら、子どもみたい」

ひとしきり笑ってから、改めて私達は向かい合う。

「じゃあ、また明日な。結衣」

「うん。明日ね、工藤くん」

すると工藤くんは、ふっと笑みをこぼし、私を優しく抱き寄せると、おでこにチュッとキスをしてくれた。

耳まで真っ赤になる私の顔を覗き込んでクスッと笑うと、工藤くんはクシャッと頭をなでて「続きは明日な」とささやく。

私はもうタコになったのかと思うほど、身体中が熱く火照ってしまった。