「樋口、俺が現れなかったらなんて答えるつもりだったの?」

向き合った工藤くんに真剣に問いかけられ、私は何も考えられなくなる。

「あいつに言われるがまま、俺との関係を解消してあいつとつき合う気だったの?」

「え、そ、それは…」

射抜くような視線で見つめられ、私は上手く言葉が出てこない。

「俺だけだったのか?一緒にいて楽しいって思ってたのは。このままずっとこの関係を続けたいって思ってたのは。樋口は何とも思ってなかったのか?俺は夏休み中も、樋口に会いたくて会いたくてたまらなかったのに。いつの間にか、こんなにも」

そこまで言ってうつむいてから、工藤くんは再び顔を上げる。

「こんなにも大切な存在だって思ってたのは、俺だけ?樋口は単なる学校行事の一つに過ぎなかったのか?時期が来たら、あっさり俺から離れていくの?」

だんだんと工藤くんの表情は切なげに変わる。

「樋口が別のやつのところに行くなんて、耐えられない」

次の瞬間、私は工藤くんの大きな腕に抱きしめられていた。

「頼む、俺から離れていかないでくれ。この先もずっとそばにいて欲しい」

耳元でささやかれ、私の胸はキュッと締めつけられる。

「工藤くん…。私も同じだよ。一緒にいると楽しくて、話を聞いてもらうと頼もしくて、優しくされると嬉しくて。いつの間にかこんなにも、工藤くんは私の大切な人になってた」

「樋口…」

工藤くんは少し潤んだ瞳で私を見つめる。

「みっともないことしてごめん。俺、あいつが樋口のこと好きだって言ってる声が聞こえてきて、思わず嫉妬したんだ。平常心ではいられなくなった。あんな自分は初めてだった。どうしようもないくらい俺…、樋口が好きだ」

そう告げられて、私は身体中がしびれたような感覚になる。

頬が一気に赤くなるのが分かった。

「うん、私も。工藤くんのことが大好き」

恥ずかしくて顔を上げられない。

すると工藤くんは、ギュッと私を抱く腕に力を込めた。

「樋口、これからもずっと俺のそばにいてくれる?」

工藤くんの胸に顔を寄せたまま、私は小さく頷く。

「うん。他の誰のところにも行かない。ずっと工藤くんと一緒にいたい」

「ありがとう、樋口」

優しく髪をなでられて、私は何とも言えない安心感に包まれる。

幸せで、嬉しくて、切なくてちょっと苦しくて。

そっと工藤くんを見上げると、涙が込み上げてきた。

工藤くんはそんな私に優しく微笑むと、もう一度腕の中にしっかりと抱きしめてくれた。