「工藤くん、お待たせ」

「ああ…って、え?!」

花火大会の日。

待ち合わせた駅前で、工藤くんは私を見るなり驚いたように固まる。

「えっと、やっぱり変かな?」

「ま、まさかそんな!すごく似合ってるよ、うん」

「そう?」

私は照れてうつむいた。

花火大会に行く、とお母さんに話すと、それならと浴衣を着せてくれたのだ。

「結衣、勉強ばっかりで根詰めてたもんね。せっかくの高校生活、楽しめてるのかな、もったいないなって思ってたの」

誰と行くのか気になるけど…とつけ加えて、お母さんは笑って見送ってくれた。

「じ、じゃあ、行こうか」

「うん」

私達は並んで駅の改札に向かう。

「混んでるから、各駅停車で行こう」

「そうだね」

車両に乗ると、工藤くんは空いている席に私を促し、座ろうとする私の手を取って支えてくれた。

「ありがとう」

お礼を言うと、工藤くんは優しく微笑んでから隣に座る。

帯が潰れてないかな、と背中を気にした時、ふと工藤くんと目が合った。

すると工藤くんは、慌てて目を逸らしてうつむく。

つられて私もうつむくと、ふいに緊張して胸がドキドキしてきた。

(やだ、こんな調子で夜までもつかな?)

浴衣に合わせて髪もアップでまとめている為、首筋もスースーして心許ない。

それになぜだか、うつむいているはずの工藤くんにチラッと見られているような視線を感じる。

結局目的地の駅に着くまで、私は無言で固まったままだった。

電車が停車し、「着いたよ」と言って立ち上がった工藤くんは、またしてもさり気なく私に手を貸してくれる。

そのまま今度は離すことなく、手を繋いで歩き始めた。