医学部の模擬講義は、白衣を着た教授がなんだか難しい講義をしていて、私は居心地の悪さにモジモジするばかりだった。

工藤くんは真剣に講義を聴きながら、時折私を見ては、ふっと笑みを漏らしていた。

医学実習の見学では、白衣の医学生達や薬品の匂い、そして独特の雰囲気に圧倒されて、私は工藤くんのシャツの袖を握りながら背中に隠れ、恐る恐る顔を覗かせていた。

そんな私に、またもや工藤くんはクスッと笑う。

「樋口、注射に怯える子どもみたいだな。ほーら、怖くないよー」

「もう、工藤くん!」

ジロリと睨むと、工藤くんは更に面白そうに笑っていた。

昼食は今回も学食で食べることにした。

美味しいパスタを食べながら、またしても私は周囲を気にしてしまう。

男子学生が多いけれど、女子も思ったより多い。

しかも白衣姿で、きれいな大人の女性といった雰囲気の人ばかりに見える。

(来年の今頃は、工藤くんもこんな人達の中に混じってるんだ。きれいなお姉さんと、白衣姿の工藤くん…。わ、なんか想像するだけでもう)

思わずフォークを置いて、両手で頬を押さえる。

「樋口、どうかしたか?」

「あ、うん。なんだか胸がいっぱいで」

「へ?腹がいっぱいじゃなくて胸が?お前、パスタ胸に入れたのか?」

「はあ?工藤くんてば。お医者様になろうって人が何言ってんのよ」

「だって樋口が変なこと言うからさ。パスタ食べて、なんで胸がいっぱいになるんだ?」

「食べたから胸がいっぱいになったんじゃないってば!もう、工藤くん。お医者様目指すなら、ちゃんと女心も学んでよね」

「えー?医学部の講義にあるのか?女心って」

「それは独学で学んでください!」

「テキストは?」

「ありません!」

私は憤慨すると、パスタを大きな口で頬張った。