参考書のコーナーに行くと、私も工藤くんもスイッチが入ったように、それぞれお目当ての本を手に取ってじっくりと吟味する。

数学の参考書を選びながら思わずため息をつくと、工藤くんが顔を上げた。

「どうかした?」

「あ、うん。私、数学が苦手で…。なんとかしたいんだけど、どの参考書がいいのかも分からなくて」

すると工藤くんは、手にしていた本を棚に戻し、私の横に並んで選び始めた。

「これとか、なかなかいいよ」

渡された本をパラパラとめくってみる。

「うーん、私にはちょっと難しいかも。これの少し手前、みたいなの、ある?」

「それなら、これかな?」

迷うことなく手を伸ばした工藤くんから受け取り、中を見てみた。

「あ、いいかも!分かりやすいし、ちょうど私のレベルに合ってる気がする」

「そう?それならその参考書、俺が持ってるやつあげる」

「ええ?!工藤くんの?そんな、ダメだよ。工藤くんだって必要でしょ?」

「いや、俺はもうこのレベルは必要ない」

うぐっ、と私は妙な声を漏らす。

「家にあっても二度と見ることはないから、もらって」

「は、はい。そうおっしゃるならありがたく頂戴致します」

「うん、今度持って来る。あ、月曜日に学校で渡そうか?」

「いえいえいえ!学校で接触する訳にはいかないので」

「そう?それなら、明日も会おう」

は?と私は目が点になる。

「明日?今日会ったばかりなのに?」

「うん。活動は月に最低2回って決まりだけど上限はないし、連日会っても差し支えないだろ?」

「そうだけど…。工藤くんの勉強時間が減っちゃうよ?」

「それなら、明日は参考書を渡すだけにする。俺はそのまま図書館で勉強するから、大丈夫」

「そっか、分かった。じゃあ明日も10時に図書館に行けばいい?」

「ああ」

「ありがとう!」

笑顔でお礼を言うと、工藤くんは少し驚いたような表情のあと、頬を緩めてふっと笑った。