「本当に久しぶりだよね。もう何年になるかな」

 立ち話もなんだからと言われて、近くのカフェに私たちは入った。
 洗練された店内に、立ち振る舞いがスマートな店員さん。窓が大きいからか、壁が黒なのにもかかわらず、温かな陽気に包まれていた。

 二人だけなのだから、カウンターでも良さそうなのに、雪くんは迷わずボックス席へ。
 思わず戸惑うと、すかさず「僕のおごりだから」とか「昔の話を誰かに聞かれたくはないから」と、私の逃げ道を塞ぐ。

 孤児になって施設暮らしをしていた雪くんと、地元では力のある……有権者の娘の私。確かに他の者の耳に入れる話ではなかった。

「中学生になって雪くんが……遠くに行っちゃったから、ちょうど六年前かな」

 本当は親戚の家に引き取られたのだ。私の家は、必要の有無など関係なしに、そういった情報が舞い込みやすい。

 ただ雪くんが別の中学に行く、というだけでも喪失感が半端なかったのに、今度は遠くに行ってしまうことを聞いて私は……!
 しかも雪くんの口からではなく、人づてに聞いてしまったのがまた、大きかった。

「いいよ。本人を目の前にして、わざわざ言葉を濁さなくたって」
「……でも、雪くんはあの時、何も言わずに行っちゃったじゃない? 言いたくなかったのかなと思って」
「それは……上手くいくかどうか、分からなかったんだ。施設からも、戻りたければ、いつでも戻ってきていいって言われていたから、余計に」

 ということは、上手くいったってことだ。