「助けてくれてありがとう。それからごめん。どんな子か知りたくて、ちょっと意地悪をしたんだ」

 少年は何でもないように立ち上がった。私も同時に引っ張り上げられる。それがあまりにも力強くて、気がついたら尋ねていた。

「……あいつらにはやられていたのに、どうして?」
「歯向かったところでメリットもないし……やられっぱなしなのも、また同じだけど……」
「あいつらにとってはお遊びみたいなものだからね」

 やられた本人を目の前にして言うことではなかったけれど、それが事実だ。

「うん。施設にいる僕なんて、ごみクズとしか見ていないんだよ」

 もしも私が優しい女の子だったらきっと「そんなことはないよ」って言えたんだろうな。けれど少年もまた、それを望んではいなかった。

「でも今日はメリットがあった」
「怪我をしているのに?」

 私はそっと、少年の頬に触れる。赤くなった痕。肌が白いせいか、鮮やかな色になっている。が、やはり痛々しい。

「誰にも見向きされていないってことが分かったから。それが高野辺さん一人だったとしても」

 そう言って笑ってくれた。自嘲じゃない、安心したような笑みに、私の心が温かくなった。

 これが初恋だと気づいたのは、中学生になって少年、いや雪くんと離れ離れになった後だった。