「大丈夫?」

 けれどそのまま細身の少年を無視して立ち去るのも分が悪い。状況的に、私は彼を助けた立場なのだ。
 けれどさすがに自尊心を傷つけかねないから、手は伸ばすことはしなかった。正義心でやったわけではなくても、相手に嫌われるのは嫌だから。

「……ありがとう」

 少年はバツが悪そうな顔で私を見上げた。ただそれっきりで立ち上がろうとしない。
 どうしたんだろう、としゃがみ込んだ瞬間、腕を掴まれた。

「っ!」

 この時の私は、自分がどんな体勢でいたのか忘れてしまうくらい驚いたらしい。反射的に体を引いてしまった。
 途端、バランスを崩し、後はそのまま少年と同じ体勢になるのを覚悟した。
 けれどお尻が痛むことはなかった。何故なら私は、少年の方に倒れ込んだからだ。少年が腕を引っ張ってくれたお陰で。

「あ、ありがとう」
「僕の方こそ、ごめん。そんなに驚くとは思ってもみなかったんだ」
「急に掴まれたら、誰だってビックリすると思うけど……」
「そうみたいだね。凄くドキドキしているのが聞こえる」

 少年からしたら何気ない一言だったのかもしれない。けれど私は恥ずかしくなって、今度こそ体を後ろに思いっ切り引いた。
 けれど尻餅をつかなかったのは、少年がずっと腕を離さないでいてくれたお陰だった。