「誰だ! この俺に向かって邪魔だと――……」
「通行の妨げになっているから邪魔だと言ったのよ。そんなに偉いのなら、他の人の迷惑にならない行動をして。アンタの親だって「お手本になるように」って言っていたじゃない」

 告げ口するわよ、と睨んでやる。普通ならこのガキ大将に目をつけられるところだが、私もまた違った意味で特殊な位置にいる人物だったのだ。

「チッ。高野辺かよ。めんどくせーな」
「それはお互い様でしょう。私だってアンタに構いたくないんだから」
「だったら邪魔……分かったよ。どけばいいんだろう」

 普段から親の力を笠に、横暴な振る舞いをしているガキ大将。お互いの力関係を熟知しているのは、むしろ向こうの方だった。
 だからいくら私に盾を付いても意味がないことくらい、知っているのだ。勝てない相手に立ち向かわないのが、向こうのやり方。けれど逆に、私はそれが嫌だった。

「フン、高野辺に感謝するんだな」

 ガキ大将は私と細身の少年を交互に見た後、捨て台詞を吐いて去って行った。取り巻きたちも一緒に。

 あぁ、本当に嫌だ。ガキ大将は自分の力を見せつけたいらしいけれど、私は逆に隠したかった。他の子と同じ扱いをしてほしい。ただそう思っているのに、現実がそれを許さない。
 だからガキ大将の行動が、余計に目に入って嫌になるのだ。

 多分この時も、虫の居所が悪かったのだろう。私にとってはそんな些細な出来事だった。